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2022年12月21日水曜日

合気道での開手をどう考えるか

合気道や護身術では、手を掴まれた時に「手をしっかり開いて対処するように」と教えられます。

一般的には、手を開くことで手首が太くなり、相手がつかみにくくなるのが理由と言われています。

 私は、それに加えて腕の内外の動きにズレを生じさせ、相手の感覚を狂わせているのではないかと考えています。


 指を動かす筋肉の多くは、前腕部にあります。つかまれた状態で手を開くと、手首の甲側の筋肉が肘の方へ、掌側の筋肉が手先側へと、わずかに移動します。

 筋肉の移動は皮膚の中の話なので、ごく小さい動きなのですが、人間の感覚はそれを感じ取り、騙されてしまうのです。


 手首の甲側からつかまれている場合、軽く押し込みながら指を開くと、掌側の筋肉の移動が起こります。このとき、つかんでいる方では、握っている部分をすり抜けて腕が入ってくるような感覚が生じます。その一瞬、正確なつかみどころを見失って抑えが弱くなりますので、技が効きやすくなるのです。


ちなみに、指を一度に開くのではなく、順番に開くようにすると、親指側、小指側で違った効果が生じます。方向性のあるすり抜けが起こるので、試してみてください。


 この方法のコツは、動かし始めながらゆっくりと指を開くこと。開ききってから動くのでは、通常の効果しかありません。また、幅広く開くよりも、指先を反らす感じの方がやりやすいようです。

 なお、逆に握り込むことでも、すり抜けの錯覚は生じます。


2022年12月13日火曜日

動く体幹を作るレッスン 肩甲骨と腕の動きを逆にする(上下)

肩と腕は、放っておくと連動します。

普通は、腕を上げるときには肩甲骨も上がりますね。
ここで行うのは、肩甲骨と腕の動きを逆にすること。腕を振り上げる時に肩甲骨を下げ、腕を振り下ろす時に肩甲骨をあげるという動作です。


腕を水平に伸ばし、手先を上げながら、肩を下げます。
次に、手先を下げながら肩を上げます。
肩甲骨を、肩の横で使う感覚にするとやりやすいです。
これはそんなに難しくないので、すぐにできると思います。


逆動作に慣れたら、次はずらします。
まず肩甲骨を上げ、少し送らせて腕を振り上げてゆきます。
腕が上がりきる前に、肩甲骨を下ろしはじめ、その後をついて行くように腕を下ろし始めます。

肩甲骨が上がり始めるところでは、まだ腕は下がっている途中。ちょっと遅れの動きを繰り返して練習します。

これを使う代表的な動きが、剣の素振りです。
剣を振り上げて、下ろす。
普通にやると扇形の往復運動です。上げた剣は一度止まってから振り下ろされますね。

基本的に、往復運動は効率の悪い運動です。動いているものを一度止めて、そこから逆向きに加速してゆくのですからブレーキを完全にかけてからアクセルを踏むようなもの。

そこで使うのが、この時間差です。
腕と肩を同時に使うのではなく、腕が振り上げ終わる前に、肩で振り下ろしに入ります。すると、剣先が上がっている時に柄は下り始めるという状態が起き、剣は8の字を描くような起動で止まることなく振り出されてゆきます。


一度完全に止まってから動き出す時には短時間で大きな力を出さなくてはならないので気配が大きく出ます。また、筋力の負担も大きくなってしまうでしょう。

このように上がる部分と下がる部分が同居する使い方では、運動に時間差ができることで負荷が分散されます。非力でも剣が使いやすくなるメリットがあります。


2022年10月11日火曜日

動く体幹を作るレッスン6  肩甲骨と腕の動きを逆にする

肩甲骨と腕は、普通は協調して動きます。
しかし前述したとおり、本能に逆らうのが古武術の稽古。

ここでは、肩甲骨の動きと肘の屈伸を逆向きにする練習をします。


1.壁腕立て伏せから始める

まずは壁に向かって立ち、壁に手をついて、肘を曲げ伸ばし。筋トレが目的ではないので、あまり深く曲げないように。


2.肩たて伏せを行う


両肘は伸ばしたまま、肩甲骨を前後に動かして身体を前後させましょう。


3.肘と肩を逆動作する

ここから分離動作です。



①肘を伸ばしたまま、肩甲骨を背中に寄せて身体を壁に寄せます。

②肩甲骨を前に出しながら、肘を曲げる

肩甲骨が前に動いた分を、肘で吸収する感じ。


③肘を伸ばしながら、肩甲骨を後ろに寄せる

肘が伸びた分を、肩甲骨で吸収。

あとは繰り返し。
慣れてくると、体幹をほとんど動かさずに腕と肩だけが動くという、ちょっと見に気持ちの悪い動作になりますね。


④壁に手をつかず同じ動作をする

手のひらは空中に止まったまま。肩だけが大きく動く動作になりますね。


さて。こんな、動いていて動いていない動作に何の意味があるのか? 以前に書いた「正面の斬り」という技をやってみるとわかります。


普通に押すと、力と力がぶつかりあって止まってしまいます。これは力の方向が読まれて対抗されてしまうからです。


そこで先程の動きを使います。
肘を曲げつつ肩甲骨を前に出し(これでプラスマイナスゼロ)、身体を前に倒して押すと、相手は抵抗できず、崩されてしまいます。

単純に押すだけの動きは読みやすいのですが、一部に引く動きが混じることで、力の方向が読みにくくなってしまうためです。

次回は、この動作のバリエーションで腕肩を上下に使う話を。


2022年9月17日土曜日

動く体幹をつくるレッスン5 肩甲骨を回す

肩甲骨の動きは、前後上下だけでなく、回転運動を伴います。今回は、回転運動を大きくするレッスンです。


1.基礎知識


肩甲骨が回転するとき、中心となるのは鎖骨の先端と肩甲骨をつないでいる肩鎖関節です。普段はあまり意識しない関節ですね。

図にあるように、肩甲骨の先端が内外に扇形に動きます。


2.準備

左腕を前に出し、前腕を顔の前に立てます。このとき、顔から10センチくらいの近いところにするのがポイントです。

鎖骨が動くと肩甲骨の動きがわかりにくいので、右手で左側の鎖骨を触れて動かないように軽く押さえます。


3.腕を内側に倒す


鎖骨が動かないように気をつけながら、立てた前腕を内側に倒します。

大きくねじってゆくと、肩甲骨が外側に回ってきます。

このとき右手を左の脇の下に入れると、肩甲骨の角に触れることができます。


4.腕を外側に倒す

同じく鎖骨に気をつけながら、前腕を外に倒します。

大きくねじると、肩甲骨が内側に回ってゆきます。


5.肩甲骨だけを動かす

ここまでは、腕の動きで肩甲骨を引っ張っていました。

何度か繰り返して、肩甲骨まわりの筋肉の感覚を覚えたら、腕の動き抜きで肩甲骨を動かします。


最初はうまく動きませんし、かなり時間がかかります。しかし動きをイメージできるようになってくると、軽い力で肩甲骨が回せるようになってきます。


次回は、腕と肩甲骨の動きを切り離してゆくレッスンです。



2022年9月9日金曜日

動く体幹を作るレッスン(4)肩甲骨の動く範囲を知る

肩甲骨は意識しづらい骨です。むしろ忘れられていると言ったほうが正しい。
実際は縁の下の力持ち、使い方次第で大きな仕事をする骨です。今回は肩甲骨の動く範囲を徹底して広げます。


1.基礎知識

まずは、肩甲骨と体幹、腕の関係について。
肩甲骨は、鎖骨を通して胸骨(前回、触りましたね)につながっています。

肩甲骨が動くコースは、胸骨の上部を中心としてコンパス(鎖骨)を回すように扇形になっています。この中心と扇形を体感すると、動きやすさが上がってきます。


まず、上からの図。
胸骨から左右に伸びているのが鎖骨。その後ろで広がっているのが肩甲骨です。
鎖骨は胸骨を中心に動くので、肩甲骨の動く範囲は図のようになります。


次に前からの図。
胸骨を中心とした扇形に、鎖骨が動きます。肩甲骨の動きは、やはり胸骨を中心とした扇形です。

2.上下に動かす

それでは動かしていきましょう。
まず鎖骨全体を覆うように、手のひらを当てます。
先程の扇形を意識しつつ、肩をあげます。肩を耳にくっつけるイメージです。鎖骨が思ったよりも大きく動くので、驚くかもしれません。これが肩甲骨が動く範囲です。

次に下げます。下げる方は範囲が狭いので、単に肩を下ろすイメージで十分です。

3.前後に動かす
上下よりも難しいのが、前後に動かすこと。まずはイメージがつかみやすいように、腕から動かします。


上下と同様、手のひらを鎖骨にあてて、動きがわかるようにしておきます。

まず前側。肩甲骨を動かしたい側の手で、反対側の脇腹に触れます。鎖骨が大きく前に出ているのがわかりますね。

次に後ろ側ですが、肘で背中を触るつもりで後ろに動かして見てください。これでほぼ最大に動いています。


4.練習と拡大

肩甲骨を使い慣れない人は、周辺の組織が貼り付いていて、動く範囲が狭くなっています。繰り返し動かしていると、貼り付きがとれて、動く範囲が広がってきます。

(ちなみに私の本職は貼り付きを取る施術なので、短時間で貼り付きを取りたい場合は、八起堂治療院治療院へどうぞ…CMでした)


もっとも、肩甲骨を動かす練習は、ここからが本番になります。
範囲を拡大するのはそれほどでもないのですが、肩甲骨を腕並みに素早く使えるようになるためには、数ヶ月単位での慣れが必要です。
まずは今回の練習で動く範囲をつかみ、あとは自分のやっている運動の中で使いながら慣れていってください。


5.補足


右の図を見て下さい。肋骨の上部がドーム型になっているのが分かるでしょうか。肩甲骨は肋骨に張り付いて動きますが、それはこのドーム型に沿って動くと言うこと。この形をイメージしていると、動かす範囲が広げやすいです。


2022年8月26日金曜日

動く体幹を作るレッスン(3)肋骨の片側だけ動かす

前回は「肋骨を動かす」でしたが、今度は「肋骨の左右を分けて動かす」です。


1.基礎知識


断面図を上から見ると、羽を開いた蝶のように見えますね。

 肋骨の根本は背中側で脊椎(胸椎)に付いています。

もう一方は、胸の前で胸骨に付いています。

 この二箇所を支点として、羽ばたくように動かすのが目標です。


2.胸骨に手を当てる

 前回は、胸骨が動くように深呼吸して、肋骨の動きを探っていました。今回は逆。胸骨が動かないように呼吸をします。

 まずは右側の肋骨を操作しましょう。右手を肋骨の横側に当てます。手を当てるのは、肋骨のやや下側、胸筋が薄くなるあたりです。

左手は胸骨を触れて、動きをチェックします。


3.深呼吸する

 まずは両側で空気を吸い込み、肋骨の動きを確認します。


4.片側で呼吸

 息を吐いた状態から、左手で胸骨を軽く押さえます。

ついで、右の肩を持ち上げながら、肺の右側だけに空気が入るのをイメージして吸い込みます。いわゆる「肩で息をする」を、片側でやる感じですね。ついで右肩を下ろしながら、息を吐きだします。

胸骨(左側の肋骨も)が動いていないことを確認しつつ、繰り返します。


何回か繰り返していると、肋骨の片側だけが膨らむ感じがわかってきます。


5.片肺だけで呼吸する

 肩を持ち上げるのをやめて、呼吸だけで片側の肋骨を動かします。


6.呼吸を短く、弱くしてゆく

 前回と同様、呼吸と肋骨の動きを切り離してゆきます。


7.片方ずつ動かしてみる

 片方ずつ交互に動かしてみて、できるようなら左右を連続して動かします。このとき、体幹が傾かないように、頭の位置が動かないように注意してください。


・使い方


一番わかりやすいのは、体幹の曲げです。

身体を横に曲げながら、片方の肋骨を膨らませ、もう一方の肋骨を畳むと、普段以上に曲げやすくなっているでしょう。


身体操作で、体幹をバランサーとして使うときには、体幹の片方だけが上下することで、早くバランスを取ることができたりします。

武術などでは、片方だけ脱力する、などの操作も。


次回、肩甲骨です。

2022年8月24日水曜日

動く体幹を作るレッスン(2)肋骨を動かす

 


肋骨は肺を動かす骨格。腕を動かす筋肉が付着しているところでもあります。
また体幹の上半分の形を形成している骨でもあります。
呼吸するときには自然に動いていますが、意図的に動かせるようになると、腕の動かしやすさが変わってきます。


1.基礎知識

 肋骨は背骨の継ぎ目から始まり、Cの字を描きながら斜め下に向かい、胸の前の胸骨という縦長の骨につながります。動き方は、背骨との接点を軸に、上下方向。普通に息を吸うとき肋骨と胸骨が上に持ち上がり、吐くときは下がります。腕を動かす筋肉のうち、大胸筋、小胸筋、鎖骨下筋、前鋸筋などが、肋骨につながっています。


2.テスト

 両腕をぐるぐる回して、感覚を覚えておいてください。練習の後でどう変化するか、確認します。


3.肋骨の動きを確認する


 胸の真ん中、胸骨に手を当てて、大きく深呼吸します。なるべく胸骨が大きく上下するように意識しながら、何回か深呼吸してください。とくに吸うとき、吸い込んだ空気が上に向かうように意識すると良いでしょう。


4.呼吸と動作を切り離す

肋骨の動きを呼吸と切り離してゆく段階です。
口と鼻から空気を出入りさせないようにしながら、呼吸をするときのように肋骨を動かします。
慣れてくると、空気と関係なく肋骨を動かせるようになってきます。


5.再テスト

 もう一度、腕を大きく回してみましょう。先程より大きく回りませんか? 肋骨が動く場所だという意識が入ったことで、腕の可動域も広がっているのです。


このあたりまでは、比較的短時間にできます。練習を繰り返していると、呼吸と関係なく動かせるようになってきます。また必要な筋肉だけを使うよう感覚がわかってくるので、軽く動かせるようにもなります。軽く早く動かせるようになるには、かなり時間がかかりますが…。


・使い方

腕を上げる動作など、腕だけの筋肉で行うよりも、体幹で手伝うことで一体感を持って行うことができます。
体幹をバランサーとして使うときには、前後のバランスを取る作用をします。
 また、後に説明する「背中を下ろす」と合わせて、体幹を前後に割って使う感覚の始まりになります。


次回は、片方の肋骨だけ動かしてゆきます。


2022年8月22日月曜日

動く体幹を作るレッスン(1)はじめに

 体幹、と言われてイメージするのは、筋肉のしっかりついた「強い体幹」ではないでしょうか? しっかりと動かず、反動を受け止めるような。

ここでお話したいのは「動く体幹」です。
手足の運動を支えるだけでなく、力を有効に伝えたり、動きの支点をずらしたり、バランサーになったりと、体幹は意外に豊かなポテンシャルを持っているのです。

甲野善紀先生の道場にいる頃、座って押し合いをする稽古(正面の斬り)をしました。
普通に腕力で押し合っている間は、対抗することができます。しかし先生が「背中をおろす」「腕を割る」といった操作を加えると、うまく力を受け止められずに簡単にコロコロと転がされてしまいました。

もちろん先生は原理を說明してくださったのですが、どれも体内で起きていることなので、初心者には全く見えません。先生の動きを見ながら、自分なりに考え、感覚を研いで少しずつできることを増やしてゆきました。

今回は、そうして考えた体幹の操作を、なるべくイメージしやすいように解説してみようと思います。
習ったものに比べるとかなり簡略化されますが、体幹部の面白さを知っていただくには十分ではないかと考えます。

体幹の操作は、大きく分けて分離と統合からなります。

(1)分離
   各部を独立して動かせるようになる
   あまり自覚していなかった身体の各部を動かせるようにします。

(2)統合
   分離した各部の動きを組み合わせて使う
   全体として意味のある動きを作る   

(2)の統合はかなり説明が難しいので、どこまでお知らせできるかわかりません。普通にいう「足し合わせ」の使い方もあるのですが、メインはむしろ「引き合わせ」だったり「無関係並行」だったりするので、文章どころか、動画でもかなり難易度が高くなってしまいます。

まあ、できる限り解説するということで。
それでは次回から、具体的な方法についてお知らせしていきます。
まずは「肋骨を動かす」。

2022年8月3日水曜日

実験的型稽古の方法


型稽古は動きの質を向上させるもの。
とはいえ、ただ漫然と繰り返すだけでは効果は限定的です。
私は、型を繰り返す過程で実験しつづけるのが大事だと考えています。



先日読んだ本「失敗の科学」(マシュー・サイド著 株式会社ディスカヴァー・トゥエンティワン)に、ぴったりくる話が載っていました。

1970年当時、総合メーカーのユニリーバは、粉末洗剤を作るノズルの目詰まりに悩んでいました。そこで流体力学に通じた一流の技術者、数学者にノズルを作ってもらいますが、結果はイマイチ。
そこで生物学者のチームに白羽の矢が立ちます(なぜ?というツッコミはおいておく)。


生物学者は、ノズルの複製を10個作り、それぞれにほんの少しずつ違った加工を加えました。比較テストすると、それぞれの性能には差があり、オリジナルを上回るノズルもありました。

学者たちは結果の良かったノズルを10個コピー、また加工してテスト。一番いいのを選んで加工…という過程を10回繰り返し、目詰まりしにくいノズルを作り上げたとのこと。
ちなみに完成したノズルは、最初には想像もできなかった形をしていたそうです。

生物学者たちは、進化論的からヒントを得ていました。ランダムな変異を起こして実験を行い、優れたものを生き残らせて、また変異させる。方向性さえ定まっていれば、その繰り返しで最適な結果に至るという手法です。


武術では、正しい手本を繰り返すようにと指導されます。しかし正しい型をなぞるのは、思うほど簡単ではありません。
とくに初心者では、身体内の力の流れや、僅かなタイミングの差などを見て取れないので、外見を真似ただけになりやすいものです。



実験的型稽古とは、先程のノズルと同じで、少しずつ動きを変えて実験しながら、完成度を高めてゆく方法です。
自分の動きを自分で感じ、違和感のある部分を修正。動いては修正。また動いては修正。それを繰り返しながら、少しずつ動きを洗練してゆきます。

稽古するうちに感覚が鍛えられ、感じ取れる情報量が増えます。すると動きの側でも修正できる事が増え、上達してゆきます。感覚が先で、動きはあと。

もちろん、重視する条件によって進化の方向は変わります。
ネズミのような原始哺乳類が、飛びやすさを条件に進化すればコウモリになり、泳ぎやすさを条件に進化すればイルカになるようなもの。

何を条件とするかは人によって違いますが、私がおすすめするのは、つぎの3つです。

1.楽かどうか

 良い動きほど効率が良いはず。同じ動作が楽にできることを目指す。

2.力の濃淡を減らす

 一部だけ力が入った動きは無理があります。なるべく平均化。

3.速さではなく早さ

 速度を上げるのではなく、早いタイミングで動作できるようにする。予備動作を減らす、手順を減らすなど。

2021年7月7日水曜日

力を捨てるところから稽古が始まる

 


 指導している学生さんが、浮かない顔をして来ました。いわく

「今週は、練習してる間に下手になった気がします…」

 とのこと。家族を相手の練習で、技が効かなくなっていたというのです。


 そこで手を合わせてみたところ、確かに崩しの動作に入ったところでピタッと動きが止まります。止まるのですが、止まり方が前回までと違う。

「この一週間で、かなり上達しましたよ!」

 と言ってあげると、本人は不思議そうな顔。実感がないらしいのです。それでも私が上達したと言ったのは、動きの質が変わっていたからです。


 以前の彼女は、力技で相手を崩そうとしていました。
 しかし崩し技は単なる力学ではなく、感覚に働きかける技術です。相手の力を読み、ぶつからないように自分の力を徹してゆくのですが、これが難しい。


 というのは、私たちの本能には「力を強くすればなんとかなる!」がプログラムされているからです。ビンのフタが開かないときは、もっと力を入れたくなりますよね。荷物が持ち上がらないときもそう。
 練習するときも、つい相手の力に対抗して力を入れたくなってしまうのです。


 力を入れると内部感覚は鈍くなりますし、大きな筋肉が固まることで、細かい筋肉の操作が難しくなります。

 上達のためには、一度力を捨てて、繊細な力の感覚と向き合う必要があります。本能を抑え、反射的に力が入る反応をしなくなるまでが、稽古の第一段階。
 とはいえ本能に逆らうのは難しく、それまでに挫折する人も少なくありません。


 学生さんは今回、それができるようになっていました。途中で止まっていたのは、感覚が鋭くなって無理を押し通さなくなったからです。

 もちろん、身体操作を覚えて技を使えるようになるまでには、まだ時間がかかります。しかし、この山を超えたことで確実に道は開けました。

 指導する側として、ほっとした次第です。


2021年6月3日木曜日

筋肉と会話する


 前回に引き続き、本能がじゃまをする話です。

昔、稽古を始めたばかりの頃は力任せに木刀を振り回していました。腕は今より一回り太く、重い木刀もなんのその。
しかし木刀の速度は今と比べ物にならないほど遅いものでした。

「力を入れると速くなる」というのも、本能的な誤解の一つです。
物理的には「力が強いと速くなる」正しいのですが、「力の実感」と「実際に伝わっている力」が異なるのが問題です。


●動作の効率

手で持つと重い荷物でも、リュックで背負うと軽く感じますね。同じものであっても、持ち方次第で重かったり、楽だったりするわけです。


動作も同じで、動き方次第で身体にかかる負荷は変わります。

例えば剣を振るだけでも、通るコースや遠心力の使い方で、必要な力の大きさは変わります。効率的になればなるほど、力は小さくてすみます。


ところが「力を入れると速くなる」と考えていると、楽に動ける方ではなく、手に抵抗感が伝わってくる振り方をしたくなります。そのほうが「大きな力を使っている実感」があるから。


さらにいうと「力を入れている」という実感は屈筋(曲げる・持ち上げる)の方がはっきりしているので、伸筋(伸ばす・支える)を使うべきところでも屈筋を使ってしまったり。

力は多く使うのですが、ムダばかりで速くなりません。


●練習は軽く、できるだけ軽く

では、どのように練習するか。逆に、力の実感がない動きを目指します。

抵抗感、手に伝わってくる感覚などに注意しながら、より軽く動けるということを基準にして練習を重ねてゆきます。


「筋肉と会話する」という言いまわしがありますね。効率の良い動きを目指す場合は「もっと頑張れ!」ではなく

「疲れてない?」と話しかけたいものです。


2021年5月31日月曜日

余談 … 早く走れる子供と、走れない子供の差は


前回、倒れないための本能が邪魔をする場合について説明しました。

関連して思い出したのが、子供のかけっこです。


私たちが走るときには、身体を前に傾けていますね。
走るための原動力は、地面を押す力です。その力を垂直(重力に対抗する方向)と水平(前方)に分けた、水平方向が加速に使われます。傾きが大きいほど、加速に使える力が大きくなりますね。

速く走れる子供は、身体を思い切って前に傾けることができるので、地面を蹴る力の多くを前進に使えるのです。


走るのが遅い子供では、上体が起きたままの子が少なくありません。これも、倒れないことを優先する本能のなせるわざ。うまく身体を傾けることができず、地面を蹴る力が身体をジャンプさせるために使われてしまい、加速ができなくなっています。


速く走るためには、足の上げ方とか腕の振り方などいろいろな要素があります。小学生のかけっこレベルでは、まず最初に身体の傾きに慣れさせることが必要かもしれません。


なお、足首が固いために前傾が苦手な子もいます。この場合は、足首を柔らかくするか、脹脛の筋肉を気長にストレッチするなどの対応が必要です。


2021年5月14日金曜日

武術的動きは、本能の一時停止

先日、人に指導しているときに

「武術的動きのポイントの一つは、本能の一時停止だ」

と気づきました。


なんだかわかりませんね。

そこで実験を一つ。


壁に右肩をつけて立ちます。このとき、右足の側面も壁につけておくのがポイント。この状態から、左足を上げてみて下さい。

「上げられない」という方、けっこういます。

上げられた方も、少し戸惑ったのではないでしょうか?


意志では、左足を上げようとしていますが、本能はブレーキをかけます。左足を上げると身体が傾くことを知っているので、まず体重を右足に移そうとし、それができないので止まってしまうのです。

私たちは、自分の身体は思うように動いていると考えています。しかし実際には、このように自動的な本能動作の方が優先するので、無駄な時間をつかってしまうことがあります。


気配を出さずに歩く技法「無足」の初歩で

「前足の膝を抜いて、倒れるように進む」

という練習がありますね。


 意識しないで動くと、前足を抜く直前に腰を後ろに引いたり、全身でリズムを取ったりという予備動作が入ることで1タイミング遅くなってしまいます。
 それを止めるには、本能の働きが必要ないと身体が理解するまで、別の動きを教え込まなくてはなりません。


 具体的には、身体を浮かせる操作や、体幹部の伸縮、モーメントの操作などで、予備動作が必要なくなる動きを作り、それを「身体が覚える」まで繰り返します。

 バランスの本能の他にも、止めるべき本能にはまだいくつかあるので、順次紹介してゆこうと思います。


2020年4月29日水曜日

剣の「バット持ち」は意外に強い

 剣の持ち方、たいていは両手の間隔をあけて、鍔元と柄頭を持ちますね。現代剣道も、この持ち方です。

 その一方で、野球のバットを持つように、両手をくっつける持ち方もあります。
 夢想願流の伝書には両手をつけている絵が描かれていますし、天然理心流の伝書の一部にも「左右の手を付けて持つなり」という記述があるそうです。

 甲野先生も、もっぱらこの持ち方で、そのまま鍔迫り合いで相手の剣を抑え込んだりしますね。

 両手をつけて持つ、この持ち方。一見、力が入りにくそうに見えますが、力学的には合理性があります。

・三角形と、ねじれ四角形

 わかりやすく図にしてみます。
 上図が、それぞれの持ち方の模式図。拳がドラえもんの手のようになっているのはご容赦下さい。

 下図は、体幹部を加えて、直線で表したもの。
 左の図が三角形になっているのに対して、右側の図は四角形をねじった、不安定な立体になっているのがわかりますね。

 三角形(トラス)が、外力に対して強く、歪みにくいのは、ご存知の通り。
 四角形、それも、ねじれた四角形は極めて外力に弱く、簡単に変形してしまいます。

 両手を離して持つ方が力が入りそうですが、それはあくまで「右手で押し、左手で引く」という動作に限った話。
 横からの力については「伸ばした腕を横から押される」のと同じで、テコの原理的に、弱くなってしまうのです。

・両拳をつけるのが強い理由

 両拳をつけて持つ場合、拳の触れる場所を頂点として、三角形が形成されます。変形しにくい三角形を体幹が支えることで、拳のねじれが防がれて、強い力に耐えられるのです。

 ただ、この持ち方では「右手で押し、左手で引く」という、テコを使った操作ができません。
 腕で剣を振るのではなく、体幹部の動きで剣を導くので、基本操作も難しいものです。
 練習や上達が難しいために、主流にはならなかったのだろうと想像します。

 ただ、この持ち方の強さにはもう一つ、脳の働きも関わっているのではないかと考えています。
 両手がくっつくことで、脳にとっては位置の情報が正確になり、力を入れやすくなるのではないかと。
 脳にはまだいろいろなことがありますね。

2019年10月10日木曜日

「中心から動く」の意味


 武術に限らず、運動は筋肉で骨格を動かすもの。
 しかし、人間の関節は、単体で強い力を出すのに不向きな構造になっています。

 図のように、関節を動かす筋肉がついているのは関節の根元。骨を一つのテコとして見ると、力点は関節に近く、作用点は骨の先端です。

 シーソーの原理でわかるように、先端の力は強く、根元の力は小さいもの。どんなに頑張っても、先端に伝えられるのは、筋肉の出す力の数分の一しかありません。

 では、どうやって大きな力を伝えるのか。
 一つ上、つまり体幹部側の関節を使うことで、関節の動きを助けます。 パターンは大きく分けて2つ。

①2つの関節を同じ方向に動かすことで、遠心力を利用する方法。

②逆方向に動かし、慣性を利用した回転で補助する方法。

 この動きに、本来の肘関節の力を加えることで、強い力を出すことができます。 さらに肩を体幹部の筋肉で…と連鎖させるなら、理論的には全身の力を手足に集中させることもできるはず。

 大事なことは、この関節を同じタイミングで使わないこと。①も②も、大きな関節と小さな関節を同時に使うと、小さな関節は負けてしまいます。

 中心が先に動いて、末端を後に使うことで、末端の負担を減らしてやれます。よく「中心から動け」というのは、単に体幹を使うという意味ではなく、こうしたタイミングをも含んでいるのです。

2019年8月18日日曜日

剣道で「送り足」が使われるわけ

 剣道では、右足を前、左足を後ろにしたまま、すり足で動く「送り足」が基本になってますね。

 しかし、宮本武蔵の五輪書では「足は左右交互に踏む」と、歩み足を推奨していますし、古流剣術の型も、ほとんどが歩み足。剣道連盟の制定型でさえ、送り足は一部でしか使いません。 
 では、なぜ剣道では送り足が主流になっているのでしょうか?

・送り足のメリットとデメリット
 送り足にもメリットとデメリットがあります。

 メリットは、構えを崩さずに動けること。自分の得意な構えを保ったまま、前後左右に移動できるのは強いです。攻撃、防御とも、すぐに行えますね。

 デメリット。
 まず長距離に弱い。送り足は短距離を素早く移動するのに向いていますが、長距離の移動では歩み足に勝てません。

 足を滑らせる動作なので、地面の摩擦しだいで動きやすさが変わってしまう。

 意外なのは坂道で、上り斜面では、びっくりするほど動きにくいです。

 実戦で使うことを考えると、とにかくデメリットが多い動き方ですね。古流剣術の多くで歩み足が使われるのは無理もありません。

・送り足は微調整に使われる?
 では、なぜ剣道では送り足が主流になったのか。

実は古流剣術の型でも、送り足を多用する場面があります。

多くの型は、打太刀と仕太刀が5,6メートルの距離をおいたところから始まります。そこから接近して打ち込むまでは、歩み足。
送り足が使われるのは、その後の攻防です。前後左右にわずかな動きを使っています。
これは間合いの調整です。剣術では、わずかな間合いが勝敗を左右するため、微調整が得意で姿勢の崩れない送り足が多用されているのです。

・剣道の試合では送り足が強い!
剣道で送り足が使われるのは、ほぼ微調整だけで試合が成立するからでしょう。

一足一刀の間合いから始まりますから、駆け寄る必要はありません。追いかけるための長距離移動も不要。地面は平らな床のみ。
この条件では、微調整に長けた送り足が有利になります。

以前の回し蹴りと同じで、これも試合に特化した習慣の一つだと言えそうです。 

2019年8月5日月曜日

武術で「筋トレはするな」と言われる理由

 スポーツや健康の領域では、筋トレをするのはもはや常識ですね。
 その一方で、武術や格闘技の世界では「筋トレをしてはいけない」という意見も根強く存在します。
 私は、どちらかというと後者です。筋肉を鍛える必要はありますが、それはかなり注意深くならなければなりません。

・トレーニングマシンの問題点は
 とくに問題なのは、トレーニングマシンを使って、特定の筋肉を鍛えることです。
 トレーニングマシンは、狙った筋肉に負荷をかけるように設計されています。そのためには、目的の筋肉だけを動かして、それ以外の筋肉を固定することが多いですね。
 筋肉は、過大な負荷をかけて筋繊維を壊すことで、より強くなる超回復が起こります。狙った筋肉にだけ重さをかけるのが有効ということになります。
 しかし、それは目的にかなっているでしょうか?

 身体をデザインするボディビルダーや、足の筋力が弱った高齢者など、筋肉を増やすこと自体が目的なら、その選択肢は正しいです。
 しかし、トレーニングの目的は、あくまでパフォーマンスを上げることのはず。

 このブログで何度も書いているように、力学的に楽な動きは、多くの部分を同時に操作することで、効率化を達成しています。
 一部の筋肉だけに荷重をかける動作を習慣として行うことが良い動きにつながるとは思えません。

・重いものを軽く使う工夫
 直心影流など、日本の古流剣術でも、振り棒という、重い木刀を振って、身体を鍛える方法がありました。
 ただ、この目的は「重いもので筋力をつける」ことではありません。目的の動作を、荷重を増して行うことで「重いものを軽く使える、より合理的な身体の使い方」を追求するものだったのです。

 筋肉を増やすことが悪いのではありませんが、良い動きが目標なら、その目的も同時に追求したいですね。
 筋トレをするなら、負荷をかけつつも、「負荷を少なく感じる」ような動きを考え、工夫を重ねてゆくのが良いと思われます。

2019年7月2日火曜日

スタートダッシュを0.1秒縮める

 前回書いた「筋肉の遊び」は、他の場面でも見られます。もちろん、こうした遊びによるタイムロスを減らせば、スポーツでは有利ですね。

 例えば、陸上のスタートダッシュ。学生スポーツなどでは、スタートの合図とともに、全身にグッと力が入り、それから動き出す選手がいたりします。これも、止まっていた筋肉が動き出す前に「あそび」があるからで、損している選手は少なくないと思います。

 この対策の一つに「動き続ける」ことが挙げられます。
 動き続けるといっても、バタバタするというのではありません。スタートする前に、微速度で動き出してしまうのです。一秒に数ミリというような、動いているのかいないのかわからないくらいの動きです。

 微速度でも、筋肉はすでに動き出す司令を受けているので、全身のあそびは少なくなっています。そのため、スタートの合図が出た瞬間に、あそびが無い分だけ、早く出られるというわけ。

 すでにやっている方も多いかもしれませんが、もし意識したことがなければ、試してみるのも面白いと思います。 

2019年6月27日木曜日

射撃での手ブレを防ぐ

前回は、一拍子の動きの話。

別々の場所を同時に使うことで、筋肉によるあそびが減らせるという動きについて書きました。

 この、別々の動きを同時にという方法は他にも使いみちがあります。面白いところでは、精密な動作での手ブレの予防。
 
 かなり前のことですが、レーザーガンの射撃をやらせてもらったことがあります。
 射撃競技には、実際の弾を飛ばすのではなく、光線による電子的な射撃を競う競技があります。弾の出る銃と違うのは、狙っている間も銃がどのように動いているか、画面上でモニターできることです。

 自分では静かに狙っているつもりでも、パソコンの表示では、銃口がフラフラしています。
 筋肉のあそびがあるために、銃口をわずかに動かしたくても大きく動いてしまうのが原因です。


 そこで前回書いたような、二箇所を同時に使う方法を試してみました。体幹を左に回しつつ、肩を右に向かって開き、相殺させることで銃口を安定させようとしたのです。
 この方法を取ると、画面上で見ても、左右のブレがかなり小さくなっているのがわかりました。
 指導してくださった方によると、初心者にしては、なかなかのものだったそうです。


 止めようとするのではなく、動き続けることで、かえって安定する。矛盾するようですが、これも人間の身体の構造によるものです。

2019年6月14日金曜日

一拍子の動きとは何か?

 前回、連続的な動作には一拍子の動きが必要と書きました。
 一拍子とは、一回の動作ですべてが完結すること。複雑な動作が一回で完結するとは、どういうことなのか?

・筋肉には「あそび」がある
 「あそび」とは、力が伝わらない範囲のこと。
 車のハンドルを左右に動かすと、1~2センチほどガタガタと動くのはご存知だと思います。これがあそびです。車の場合は、ハンドルの動きがすべてタイヤに伝わると、かえって運転しにくいので余裕をもたせてあります。

 「行って返って」が難しいのは、筋肉にも「あそび」があるからです。
 例えば、手を上下する場合に、肘で往復するとします(上図)。

 肘を曲げるときは、肘の内側の筋肉が縮みます。このとき、外側の筋肉は緩んでいますね。

 次に伸ばそうとすると、外側の筋肉が縮みはじめます。ところが、肘はすぐに動き出しません。

 外側の筋肉は先程まで緩んでいたので、緩みがなくなるまでは腕に力が伝わらないのです。屈伸のたびに、筋肉の緩み分(正確には、関節も)タイムロスが生じます。そのため往復の動作をすばやく行うのは難しいのです。

・一拍子とは、一方通行の組み合わせのこと
 では、どうするか。往復の動きを、分業すればいいのです。先程の手の上下で言うと、上げるのを肩、下げるのを肘で行う。こうすると、どちらの筋肉の動きも一方通行なので、緩みから張るまでのタイムロスがありません。ついでにいうと、上げ終わる前に下げ始める(逆の動きの重ね合わせ)ことで、さらにロスを減らすこともできます。

 つまり一拍子の動きとは「一方通行の動作をタイミングをずらして組み合わせることで、タイムロスを作らない動き方」です。

・すり抜ける影抜きの動きを表現してみます

①切り込みは、腕と肩甲骨の回転に、体幹の差し替えで行います。
②止めるための移動を、肩甲骨の右前方への移動で行い、その反作用は体幹部で吸収します。
③跳ね上げを左半身の沈めで行い
④戻すのは、重力を中心に、動き出しは体幹の慣性で行います。
(本当は、もっと細かい操作も行っていますが、主になる部分だけを取り出しています)

 動作は、どれも一方通行で、往復している部分はありません。腕が①と④で二回働いているように見えますが、切込みは②③の間、遅くなっているだけで一回の動き。これも、動作の重ね合わせの一つです。

 もっと上手くなると、一方通行の組み合わせが循環するようになって、切れ目なく連続した動作になると思うのですが、私はそこまで達していません。

2019年6月6日木曜日

影抜きの方法論② 目標を飛び越す影抜き

 影抜きにはもう一つ、立ててある棒を斬ると見せて、飛び越すものがあります。ちょっとみると、刀が棒を通り抜けたように見えて面白いものです。

 この技は実戦で使う技ではなく、身体の使い方をみるためのテスト的な意味合いが強いものです。

 なぜテストになるのかといえば、空中に支点を作りつつ、いくつもの動作を重ねて行う、多重操作が必要な技だからです。


 具体的な動きは、上図のようになります。
 右上から切り込んで、目標に当たる直前で刃を真上に跳ね上げ、目標を通り越したところで元のコースに戻る。

 途中の動きを分解して解説すると、次の図のようになります。薄い色が操作前、濃い色が操作後の位置です。

 
①右上から、回らない動きで切り込む
 
②目標物の手前で、刀と腕を切っ先方向へ送って止める。
 前回書いた方法です。送る方向は、袈裟斬りの都合上、やや右方向。その反作用は、体幹を左へ送って吸収します。

③それと同時に、左半身を沈め、柄頭を引き込むように下げます。刀の重心が仮の支点になり、剣先が跳ね上がります。
 
④目標を越えたところで柄を前に出すと、重力の作用で剣先が下がります。元のコースまで下りたところで体幹の左運動を使って進ませます。
 
 操作としては、柄を前後に操作する感じですね。図で見ると、結構簡単そうですが、高速で行うのは、かなり難しいのです。

 というのは、この前後の動きを腕で行おうとすると、「行く 戻る 行く」という、三拍子の動きになって、刀の速度についていけないからです。
 実現するには、隙間のない一拍子の動きを使わなくてはなりません。

 次回は、一拍子の動きについて。

2019年6月3日月曜日

「影抜き」の方法論1.5 刀を止める力学

 次の、目標物を飛び越す影抜きの前に、刀を止める方法について書かなくてはなりません。いわゆる寸止めです。

・前提…回らない打ち込み
 とはいえ、足を踏ん張って全身を回しながら打ちこむと、体重と刀を合わせて60キロ、70キロの物体の回転運動になりますね。そんな運動を止めるのは難しいので、回らずに打ち込むのが前提です。

 ではどうするか。
 以前に、居合の刀の動きについて書いたように、刀は全体として前回転しながら、目標に向かって運動している動きです(上図)。

・刀は、一直線になると止まる

 この動きでは、刀は前下方に向かいつつ、前向きに回転しています。 

 前下方に向かっているところで、刀の回転にのるようにして柄を浮かせてやると、重心と柄の位置が一直線になり、これ以上回転できなくなって、切っ先が止まります。
 また、前方に向かっていた慣性のエネルギーも、腕を引っ張るだけの直線運動になるので、体幹の重さで簡単に止められるのです。

・中心からの距離と回転
 さらに、刀が前方に伸びることには、もう一つの意味があります。

 刀全体の動きはカーブ(円弧)を描いているので、前方に伸びるのは、遠心力によって中心から離れてゆく、いわば投げ出される動きです。

 以前モーメントの話で書いたように、回転しているものは、中心からの距離が遠くなると、回転が遅くなります(スケート選手が、腕を広げることで回転を止めますね?)
 刀と腕全体の回転運動も、回転の中心から遠ざかることによって減速し、容易に止められるようになるのでした。

 さて、これで「目標をすり抜ける影抜き」の準備ができました。

2019年5月19日日曜日

「影抜き」の方法論①…刀の軌道を変化させる技

 打ち込む太刀筋を、空中で変化させる技があります。甲野先生は「影抜き」と呼んでいました。

 例えば、右袈裟に切り込んだ剣を、相手の剣にぶつかる寸前で左袈裟に変える技。
 その他、デモンストレーション的な技ですが、立ててある棒に切り込むように見せながら、コースを変えて棒を飛び越す技も。速度次第では、剣が棒を通り抜けたかのように見えます。

 こうした剣の使い方にも、もちろん理論があります。

・右袈裟を左袈裟に変化させる影抜き

 この変化は、空中に支点を作る動きの一つです。


 刀を右から切り込む動きから、刀の重心を中心として鼓形に回すイメージになります。

 具体的には、切り込みの途中で刀の重心(鍔の部分より少し上)を中心に、
柄を前⇒右へと、右まわりに引き込みます。

 柄を剣尖方向に押し出すことによって、剣尖の動きは止まり、次の右回りの動きで、弧を描くように左からの切込みに変化します。


 回すイメージは鼓形ですが、剣全体の重心は前下方へ進み続けているので、右図のようなコースを描きます。
 刀の運動エネルギーは、重心の移動と回転運動の合成です。重心の運動を止めたり変えたりするのは大変なので、重心の運動はなるべくそのまま、重心を軸に回転させるだけの操作を行います。

 なお、柄を右へ引く動きを腕で行おうとすると、キレの悪い動きになります。この回転は腕で作るのではなく、体幹の左右を差し替えて(右肩が前になっていたのを左肩が前になるように入れ替える)行います。水鳥の足(浮身)を使うと、差し替えが楽です。
 あくまで腕と体幹を別々に使うことが条件になります。

2019年5月6日月曜日

体幹部をもっと使うために ③ 骨盤

 体幹部で気をつけたいところの一つが、骨盤です。実は一つの骨ではなく、3つの骨が寄り集まってできているので、ほんの少しだけ動きます。

 図にある仙腸関節と、恥骨結合(矢印)が、に柔軟性があって動きます。

 この骨盤の動きには3つの役目があります。
 一つは、ショックアブソーバーとしての役割。
 骨盤を囲んでいる靭帯の弾力によって、衝撃を吸収します。

 2つ目は、体幹部の運動を助ける役目。靭帯と足の筋肉で支えられた構造なので、体重の移動にともなって動いてくれます。例えば、右側に体重をかけると、仙骨の右側が沈んで、曲げを助けます。

 3つ目は、股関節の動きを助けて、足の動く範囲を広げてくれます。身体が固い、という人は、骨盤の動きも悪いことが多いです。

 こうした骨盤の動きを意図的に使うのは簡単ではありません。とはいえ「骨盤が動く」と知っているだけでも動きは変わるもの。今度、腰を動かすときには、ちょっと意識してみて下さい。 

2019年4月23日火曜日

余談…ねじれるのは腰ではなく、背中という事実

 脊椎ついでの余談です。
 スポーツなどでは「腰をねじって」といわれることがありますね。
 でも、実は腰はあまりねじれないのです。

 脊椎は、上から頚椎、胸椎、腰椎の三種類に分けられます。
 体幹の動きに関わるのは胸椎と腰椎。肋骨がついているのが胸椎、ついてないのが腰椎です。

 さて、身体をねじるとき、一般的には腰をねじっているという実感があると思います。しかし、腰の構造は、ねじるのにはあまり向いていません。
 右の写真を見て下さい。
 上が胸椎(背中)の後ろ側。継ぎ目が平面的に重なっているのがわかりますね。
 下が腰椎の後ろ側。下の骨が、上の骨を左右から挟んでいるのがわかるでしょうか?

 脊椎がねじれるには、この継ぎ目が左右に動く必要があります。胸椎の継ぎ目は平面的なので(赤い矢印)、左右に動くことができます。ところが腰椎は、左右から挟み込まれているので動けず、ほとんどねじれません(前後左右に曲げることはできる)。

 実際、椅子に座って、背骨(腰椎)の出っ張りを触りながら、身体をねじってみて下さい。思った以上に、骨が横に動いていないと思います。
 首の後ろの骨に触りながらねじると、動いているのがわかるはず。

 腰がねじれると感じるのは、胸椎がねじれたときに引っ張られた皮膚が、腰で斜めに張るからですね。あと、股関節が(骨盤の仙腸関節も少々)動いて腰全体が回るのを、腰椎の回転であると感じることから来ています。

 本当に腰を強くねじろうとすると、傷めることもありますので、ご注意下さい。

2019年4月17日水曜日

もっと体幹を使うために②…脊椎の操作

  脊椎もいろいろ動かせる部分です。
 もちろん、わかりやすい「前かがみ」「後ろにそらす」もあるのですが、使いようによって、もう少し器用な事もできます。

 図は人間の脊椎を横から見たところ。脊椎のS字カーブがありますね。背中のあたり(胸椎)は後ろ側が膨らむように、腰のあたり(腰椎)は前が膨らむようになっているのがわかりますね。

①運動の支点を増やす
 動きの支点をずらす話を書いたことがありますが、脊椎でも同じ。曲げるということは、そこが運動の支点になることを意味します。

 身体を前に曲げる時、普通は腰を主に使うことが多いですね。もし、腰と背中が別々に作動すれば、支点が増えるわけで、それだけ動きのバラエティを増やせるわけです。

 たとえば、腰の反りを深くしながら前に出てゆくと、上半身(というよりも胸)が小さいながらも円運動することで、相手の力とぶつかるのを減らすことができます。

②前傾姿勢を作る
 骨盤が後ろに傾くと、背中の反りはなくなり、腰は丸くなります。骨盤と脊椎のつなぎ目が後ろに移動することで、上半身は身体を前に傾けたのと似た姿勢になります。
(右の図でピンクの線)


 これは、前に動き出すのに有効です。
 「額を指で押さえるだけで、椅子から立てない」という科学手品をご存知の方は多いと思います。私たちが前に出るためには、身体を前に傾けることが必要で、ふつうは腹筋や、腸腰筋を使って傾けます。
 この操作では、肩、首の位置や角度がほとんど変わらないまま前傾したのと同じ効果が得られるので、立ち上がることができます。
 組技で応用することもできます。

③身長を変える
 脊椎のカーブによって身長が変わるのは、なんとなくわかりますね。

 通常の状態から、少し力を抜いて脊椎に体重をかけると、カーブが深くなり、背が低くなります。逆に、背中を凹ませ、骨盤を立てるとカーブが浅くなり、身長が伸びます。その差は3~4センチ程度。

 長さとしてはわずかですが、この伸縮は体重のコントロールに使えます。とくに、足にかける体重を抜いて操作する「水鳥の足」という技法では有効で、上半身をそのままに、腰だけを落として足を自由に使うときなどに有効です。

 この「水鳥の足」、私が甲野道場に入った頃は普通に話していましたが、最近ではあまり言われることがないようです。これについても、そのうち解説します。

2019年4月8日月曜日

もっと体幹を使うために①…肋骨の操作

 体幹を作る、というと「インナーマッスルを鍛えて、しっかりした体幹を」という話になることが多いです
 とはいえ、体幹は筋肉の集まり。いろいろな動きが可能な部位でもあります。単なる土台として使うのはもったいない話です。

・肋骨の動きは上下方向

 ということで、まずは肋骨の話を。
 肋骨が動くことは、みなさん、深呼吸でご存知の通り。本来は呼吸のための動きですが、呼吸と関係なく動かすこともできます。

 右の図は、脊椎と肋骨を横から見たところ。肋骨が脊椎についているのがわかりますね。肋骨の運動は、脊椎とのつなぎ目を支点にした、扇形の動きになります。
 肋骨の前側は、胸骨という骨でつながっているので、この胸骨が持ち上げられたり、下がったりするのが、主たる作用です。

・肋骨を動かす意味
①前傾の助けになる
 胸骨と肋骨が上がると、胸筋も持ち上げられます。胸筋分の重量が上昇する反作用と、腹部の筋膜が緊張することで、身体を前傾する助けになります。量としては大きくないのですが、バランスを変えるきっかけとして使えます。

②肩の動きの補助になる
 肩甲骨は肋骨の上に乗っており、筋肉でつながっているので、肋骨が動くと肩も動きます。この動きは、肩甲骨を動かす筋肉とは別に、独立して動かせるので、うまく組み合わせると腕の動きを軽くすることができます。

 この肋骨の動きが固い方も多く、それが肩こりの原因になっていることも多いのです。その場合は、脊椎と肋骨の継ぎ目をゆるめる施術を行います。

 次回は脊椎について。

2019年4月2日火曜日

「見えない動き」「消える動き」とは何か②ミラーニューロン

 前回の続きです。
 ちょっと長い引用になりますが、ミラーニューロンとは…

「霊長類などの高等動物の脳内で、自ら行動する時と、他の個体が行動するのを見ている状態の、両方で活動電位を発生させる神経細胞である。他の個体の行動を見て、まるで自身が同じ行動をとっているかのように"鏡"のような反応をすることから名付けられた。他人がしていることを見て、我がことのように感じる共感(エンパシー)能力を司っていると考えられている」(Wikipedia)

 私たちの脳は、他人の行動を、ただの映像としてみているわけではありません。自分が同じ動きをしているかのように再現し、いわば「身体を通して」理解しているのです。

 さて、ここで大事なのは
「自分が同じ動きをしているかのように」
 というところです。

 経験的に感じていることですが、人間が一度に操作できる関節の数には、個人によって上限があります(意図的に練習すれば、増やせる)。

 このブログのテーマでもありますが、力学的な(筋肉の)負担と、情報的な(脳の)負担はトレードオフ。効率の良い動きになるほど、一度に操作する関節の数が多く、動かし方も複雑になります。
 それを見ている人の、関節操作力が追いつかないとどうなるでしょうか。

 ミラーニューロンが他の人の動きを再現するといっても、基準は自分の動きです。たとえば、8個の関節を同時に動かす動きは、5個しか使う習慣のない人には、再現できません。
 その部分についてはミラーニューロンによる脳内イメージを作ることができず、欠落することになり「見えない」と認識されるのではないでしょうか。

 これが、ミラーニューロンから考える「見えない動き」の仮説です。

 もし、稽古を重ねて同じような動きができる(少なくともイメージできる)ようになれば、見えない動きも見えるようになるでしょう。

 小説や漫画で出てくる「お前の動きは見切った」というセリフ。技が正確に見えるなら、その技の動きを具体的な身体の動きとして理解できていることになります。
考えようによっては、深い内容なのかもしれません。

2019年3月29日金曜日

「見えない動き」「消える動き」とは何か①処理落ち

 古武術では、動作について「見えない(消える)動き」という表現が使われることがあります。これは、速度が速くて目に見えない、という意味ではありません。
「どう動いたかがわからない、いつの間にか動作が終わっている」というタイプの動きです。上級者の動きでは、実際の速度がそれほどでもないのに、なぜか見えなかったりします。

 超常的な話ではない以上、なんらかの理由があるはず。
 ポイントになるのは、「効率の良い動きは、通常の動きよりも同時に使われる関節・筋肉の数が多い」こと。そこからいくつかの仮説を立ててみます。

仮説1.目印の消滅

 夜空を見ている時、雲が流れると、まるで月が動いているように見えることがありますよね。これは、夜空に目印がないため、正確な動きがわからなくなるのです。

 動きの方向や大きさを見るには、基準になる目印が必要です。
 例えば手先の動きを見るには、肘を基準にしますし、肘の動きを見るには、肩や体幹部を基準にします。
 その際、基準になる関節も同時に動いてしまうと、動きの方向や大きさを正確に読み取れなくなってしまいます。その結果としてどう動いたかわからなくなるのではないか、という仮説です。

仮説2.処理落ち

 「処理落ち」は、コンピュータの用語です。あつかう情報の量がコンピュータの能力を超えてしまった場合に、処理が遅くなったり、飛ばされたりすることをさします(昔のファミコンではよく起こりました)。

 ボールが1個飛んできたとしたら、どんなコースを動いたか、見て覚えるのは簡単です。それが2個になるとちょっと難しくなり、3個、4個、5個と増えると、どんなコースで動いたか、覚えるのはかなり難しくなります。
 人間が正確に認識できる数は、それほど多くありません。そこで、多数の関節が同時に動くことで、それを認識できなくなるのではないか、という仮説です。

 この2つの仮説よりも更に有力ではないかと思っているのが、ミラーニューロンが関わっているという仮説です。
 この仮説については次回。

2019年1月7日月曜日

骨を斜めに使う…足では

 移動の話の続きです。
 前回、地面を蹴らずに移動するには、足の傾きを利用するという話を書きました。

 以前に書いた「骨を斜めに使う」は、足においても有効です。骨を斜めに使うことで、擬似的に、傾きを大きくすることができるのです。

 実際には、骨の上下にかかる力の位置を変えるのですが、力線が変わることで、足が傾いたのと同じ効果が出て、身体が前に進みます。
 メリットは、足の荷重を抜く(負荷をへらす)よりも小さな動作で、動きを開始できること。
 ちょっとしたコツの一つです。 

2018年12月30日日曜日

地面を蹴らない移動

 地面を蹴らずに移動するには「前方から引かれるように移動」などと言われたりします。実際に身体を引っ張っているのは、重力です。

 体重を、両足均等に支えているところから動き出す場合。
 最初の動き出しは、移動したい側の力を抜くことです。身体は支えを失って倒れてゆき、移動が始まります。
 しかし、全身で倒れるのでは、この動作は遅くなってしまいます。

 学校の掃除の時間に、ホウキを逆さまにして手のひらに立て、遊んだことはありませんか? あれは長いホウキだから簡単なので、短い棒(例えば金槌)ではうまくいきません。すぐに倒れてしまって、バランスが取りにくいからです。

 長さが短いと、僅かに動くだけで、大きく傾くことができます。
 例えば、長さ1.5メートルのホウキと、30センチの金槌があるとします。ホウキが30度まで傾くためには、ホウキの頭が80センチ動かなければなりません。しかし金槌が同じ傾きになるには、16センチ動くだけで十分です。
 倒れる力は、傾きが大きいほどに大きくなるので(横方向の分力が大きくなる)、短い方が加速が早くなる理屈です。

 倒れると言うよりも、腰が沈む感じ。「身体はまっすぐに」という、武術でよく聞くアドバイスは、このことを表したものかもしれません。

2018年12月16日日曜日

回らないで回る③ 縦に回る

 回転にも、縦回転と横回転があります。横回転は、水平方向の回転。この回転には手間がかかることは、以前も書いたとおり。
 同じ回転でも、縦の回転だと重力を利用できるので、モーメントを起こすのも止めるのも楽になるのです。


 左前の構えから一歩踏み出す時、体幹を水平に回すと、大きな抵抗を感じます。ところが、後ろ側(右側)の肩を腰を落とすようにして、左肩と腰の下をくぐらせるように回します(最初は、前体重の構えからが、やりやすい)
 感覚としては、振り子を持ち上げておいて落とすと、反対側に通り抜けてゆくような感じ。


 水平回転よりも、ずっと軽く回れることに気づくはずです。これは、重力によって回転を始められること、止めるのにも重力を使えることによるものです。


 ただ、この運動には、体幹部が柔軟なものだと意識する必要があります。体幹部を固い箱のように考えていると、動くことができません。
 まずは、肩と腰が柔らかく動かせるということを、より強く意識するところから始めます。

2018年12月12日水曜日

回らないで回る② 地面に頼らないモーメント

 回らないの意味は、地面からモーメントを受ける必要性を減らすことです。
 そこで、地面以外からモーメントを受ける方法があります。その一つは、腕、足などの内外旋でモーメントを作ること。
 内旋、外旋というのは、水平回転のことです。人体の場合、腕や足のねじりのことを指します。

  何かを押すと、自分も逆方向に押し返されるのが、反作用ですね。
 反作用は回転にもあり、何かを回すと、自分自身も逆方向に回転の力を受けます。

 簡単な実験です。
 片足立ちで「前へならえ」の格好をします。右か左へ腕を振ると、身体が反対方向に回るのがわかりますね。

 たとえば左前の構えを右前の構えに変えるとき。手を伸ばしたまま構えを変えると、体幹部に対して両手を右に振ることになり、体幹を左回しにする助けになります。

 足を前に運ぶときも、前足を内回し、後ろ足を外回しに軽く回しながら移動すると、足が出しやすくなります。
 面白いのが、まっすぐに立った姿勢よりも腰を落とした、つまり足を曲げた姿勢のほうが、反作用が大きくなること(モーメントの性質)。

 昔の格闘技の構えに腰を落とした姿勢が多いのは、こうした性質のせいかもしれない…というのは私の勝手な想像です。

2018年12月8日土曜日

回らないで回る①

 運動中に身体を回すには、モーメント(回転力)が必要です。しかし、地面を蹴って回ると、時間がかかる上に、動きを読まれやすいので、できるだけ地面には頼りたくありません。そこで出てくるのが「回らないで回る」です。

 合気道などで多用される、前足を軸にして、くるっと回る動作を例にします。

 普通に考えると図1のような足の動きになりますね。
 これは、身体から離れたところにある重量を回転させるのと同じ。加速にも減速にも、足を踏ん張って地面から力を受ける必要があります。


 さて、足を回すには地面から力を受けることが必要ですが、重心に向かって引き寄せたり、逆に押し出したりする動きは、地面から力を受ける必要がありません。

 そこで、足を回すのでなく、後ろ足を引き寄せてから、目的方向へ送り出します。重りを引き寄せて、その勢いで反対側へ飛ばす感じです。モーメントは、両足が接近したところで作用するだけなので、最小ですみます。

 また、この方法では回転が終わったところで止める必要もありません。動作の最後には、両足が広がって遠くにある「重い」状態なので、アンカーになってくれるのです。

 動いた結果としては回っているのですが、円弧を通らないことで、回ることについて回るモーメントを最小にしているわけですね。

 回る方法については、他にもまだまだ書くことがあったりします。体幹部を回らずに回す方法、地面に頼らずモーメントを作る方法、縦のモーメント等々。 
 次回以降、のんびりと。 

2018年12月3日月曜日

古武術に欠かせない「モーメント」の理解

 このブログで、何回か出てきた「モーメント」。簡単に言うと「物体を回転させる力」です。

 この先も何度も出てくるので、ここでまとめて解説しようと思います。(正確には「力のモーメント」あるいは「トルク」ですが、以下、単にモーメントと書きます)。
 
・モーメントの基本は、テコの原理
 ダンボール箱を、箱の中心に向けて押すと動きます(移動)。箱の端を押すと、箱は回りますね(回転)。
 中心からズレた力は、物体を回転させるように作用します。この「回す力」が、モーメント。  

 モーメントは、力の大きさ(強さ)と、中心からの距離の掛け算で表されます。難しそうに聞こえますが、簡単に言ってしまえばシーソー(テコの原理)と同じです。

 シーソーで、大人と子供が遊ぶ時、子供を中心から遠いところに座らせると、釣り合いますね。

 子供のほうが軽いのですが、中心から遠いので、距離が重さを補います。
 遠いのと、重い(強い)のとは同じ効果がある。これがモーメントの基本的な性質です。

 例えば「相手より有利な関節技の力学」で書いたとおり、関節技などでは、自分が相手よりも大きな半径の円を描くことで、相手より弱い力でも技をかけることができます。

・遠いのと、重いのは同じ効果
 また、中心から遠いところにあるものは「動かしにくく、止めにくい」性質があります。重いものが動かしにくく、止めにくいのと同じです。

 抜刀の話で書きましたが、刀が大きな円を描くように抜くと、加速しにくく、取り回しにくくなります。これは、大回しによって、刀が重いのと同じ意味になるからです。
 回し蹴りも同じで、大きく回す蹴りは強力ですが、加速と減速が大変。
 
・矛盾を成り立たせるのが技術
 重要なことなので、もう一度書きますが、遠いのと重い(強い)のは同じ

 武術では、強力で、早く、遠いところに届きながら、取り回しがしやすい動作が理想です。しかしモーメントで考えると、これらの条件は、見事なまでに矛盾しているのです。
 そこで様々な方法で、この矛盾をどうにかしようというところに、技術があります。
 そうした技術について、次回。