広告

2022年12月21日水曜日

合気道での開手をどう考えるか

合気道や護身術では、手を掴まれた時に「手をしっかり開いて対処するように」と教えられます。

一般的には、手を開くことで手首が太くなり、相手がつかみにくくなるのが理由と言われています。

 私は、それに加えて腕の内外の動きにズレを生じさせ、相手の感覚を狂わせているのではないかと考えています。


 指を動かす筋肉の多くは、前腕部にあります。つかまれた状態で手を開くと、手首の甲側の筋肉が肘の方へ、掌側の筋肉が手先側へと、わずかに移動します。

 筋肉の移動は皮膚の中の話なので、ごく小さい動きなのですが、人間の感覚はそれを感じ取り、騙されてしまうのです。


 手首の甲側からつかまれている場合、軽く押し込みながら指を開くと、掌側の筋肉の移動が起こります。このとき、つかんでいる方では、握っている部分をすり抜けて腕が入ってくるような感覚が生じます。その一瞬、正確なつかみどころを見失って抑えが弱くなりますので、技が効きやすくなるのです。


ちなみに、指を一度に開くのではなく、順番に開くようにすると、親指側、小指側で違った効果が生じます。方向性のあるすり抜けが起こるので、試してみてください。


 この方法のコツは、動かし始めながらゆっくりと指を開くこと。開ききってから動くのでは、通常の効果しかありません。また、幅広く開くよりも、指先を反らす感じの方がやりやすいようです。

 なお、逆に握り込むことでも、すり抜けの錯覚は生じます。


2021年7月7日水曜日

力を捨てるところから稽古が始まる

 


 指導している学生さんが、浮かない顔をして来ました。いわく

「今週は、練習してる間に下手になった気がします…」

 とのこと。家族を相手の練習で、技が効かなくなっていたというのです。


 そこで手を合わせてみたところ、確かに崩しの動作に入ったところでピタッと動きが止まります。止まるのですが、止まり方が前回までと違う。

「この一週間で、かなり上達しましたよ!」

 と言ってあげると、本人は不思議そうな顔。実感がないらしいのです。それでも私が上達したと言ったのは、動きの質が変わっていたからです。


 以前の彼女は、力技で相手を崩そうとしていました。
 しかし崩し技は単なる力学ではなく、感覚に働きかける技術です。相手の力を読み、ぶつからないように自分の力を徹してゆくのですが、これが難しい。


 というのは、私たちの本能には「力を強くすればなんとかなる!」がプログラムされているからです。ビンのフタが開かないときは、もっと力を入れたくなりますよね。荷物が持ち上がらないときもそう。
 練習するときも、つい相手の力に対抗して力を入れたくなってしまうのです。


 力を入れると内部感覚は鈍くなりますし、大きな筋肉が固まることで、細かい筋肉の操作が難しくなります。

 上達のためには、一度力を捨てて、繊細な力の感覚と向き合う必要があります。本能を抑え、反射的に力が入る反応をしなくなるまでが、稽古の第一段階。
 とはいえ本能に逆らうのは難しく、それまでに挫折する人も少なくありません。


 学生さんは今回、それができるようになっていました。途中で止まっていたのは、感覚が鋭くなって無理を押し通さなくなったからです。

 もちろん、身体操作を覚えて技を使えるようになるまでには、まだ時間がかかります。しかし、この山を超えたことで確実に道は開けました。

 指導する側として、ほっとした次第です。


2021年6月3日木曜日

筋肉と会話する


 前回に引き続き、本能がじゃまをする話です。

昔、稽古を始めたばかりの頃は力任せに木刀を振り回していました。腕は今より一回り太く、重い木刀もなんのその。
しかし木刀の速度は今と比べ物にならないほど遅いものでした。

「力を入れると速くなる」というのも、本能的な誤解の一つです。
物理的には「力が強いと速くなる」正しいのですが、「力の実感」と「実際に伝わっている力」が異なるのが問題です。


●動作の効率

手で持つと重い荷物でも、リュックで背負うと軽く感じますね。同じものであっても、持ち方次第で重かったり、楽だったりするわけです。


動作も同じで、動き方次第で身体にかかる負荷は変わります。

例えば剣を振るだけでも、通るコースや遠心力の使い方で、必要な力の大きさは変わります。効率的になればなるほど、力は小さくてすみます。


ところが「力を入れると速くなる」と考えていると、楽に動ける方ではなく、手に抵抗感が伝わってくる振り方をしたくなります。そのほうが「大きな力を使っている実感」があるから。


さらにいうと「力を入れている」という実感は屈筋(曲げる・持ち上げる)の方がはっきりしているので、伸筋(伸ばす・支える)を使うべきところでも屈筋を使ってしまったり。

力は多く使うのですが、ムダばかりで速くなりません。


●練習は軽く、できるだけ軽く

では、どのように練習するか。逆に、力の実感がない動きを目指します。

抵抗感、手に伝わってくる感覚などに注意しながら、より軽く動けるということを基準にして練習を重ねてゆきます。


「筋肉と会話する」という言いまわしがありますね。効率の良い動きを目指す場合は「もっと頑張れ!」ではなく

「疲れてない?」と話しかけたいものです。


2021年5月31日月曜日

余談 … 早く走れる子供と、走れない子供の差は


前回、倒れないための本能が邪魔をする場合について説明しました。

関連して思い出したのが、子供のかけっこです。


私たちが走るときには、身体を前に傾けていますね。
走るための原動力は、地面を押す力です。その力を垂直(重力に対抗する方向)と水平(前方)に分けた、水平方向が加速に使われます。傾きが大きいほど、加速に使える力が大きくなりますね。

速く走れる子供は、身体を思い切って前に傾けることができるので、地面を蹴る力の多くを前進に使えるのです。


走るのが遅い子供では、上体が起きたままの子が少なくありません。これも、倒れないことを優先する本能のなせるわざ。うまく身体を傾けることができず、地面を蹴る力が身体をジャンプさせるために使われてしまい、加速ができなくなっています。


速く走るためには、足の上げ方とか腕の振り方などいろいろな要素があります。小学生のかけっこレベルでは、まず最初に身体の傾きに慣れさせることが必要かもしれません。


なお、足首が固いために前傾が苦手な子もいます。この場合は、足首を柔らかくするか、脹脛の筋肉を気長にストレッチするなどの対応が必要です。


2020年4月29日水曜日

剣の「バット持ち」は意外に強い

 剣の持ち方、たいていは両手の間隔をあけて、鍔元と柄頭を持ちますね。現代剣道も、この持ち方です。

 その一方で、野球のバットを持つように、両手をくっつける持ち方もあります。
 夢想願流の伝書には両手をつけている絵が描かれていますし、天然理心流の伝書の一部にも「左右の手を付けて持つなり」という記述があるそうです。

 甲野先生も、もっぱらこの持ち方で、そのまま鍔迫り合いで相手の剣を抑え込んだりしますね。

 両手をつけて持つ、この持ち方。一見、力が入りにくそうに見えますが、力学的には合理性があります。

・三角形と、ねじれ四角形

 わかりやすく図にしてみます。
 上図が、それぞれの持ち方の模式図。拳がドラえもんの手のようになっているのはご容赦下さい。

 下図は、体幹部を加えて、直線で表したもの。
 左の図が三角形になっているのに対して、右側の図は四角形をねじった、不安定な立体になっているのがわかりますね。

 三角形(トラス)が、外力に対して強く、歪みにくいのは、ご存知の通り。
 四角形、それも、ねじれた四角形は極めて外力に弱く、簡単に変形してしまいます。

 両手を離して持つ方が力が入りそうですが、それはあくまで「右手で押し、左手で引く」という動作に限った話。
 横からの力については「伸ばした腕を横から押される」のと同じで、テコの原理的に、弱くなってしまうのです。

・両拳をつけるのが強い理由

 両拳をつけて持つ場合、拳の触れる場所を頂点として、三角形が形成されます。変形しにくい三角形を体幹が支えることで、拳のねじれが防がれて、強い力に耐えられるのです。

 ただ、この持ち方では「右手で押し、左手で引く」という、テコを使った操作ができません。
 腕で剣を振るのではなく、体幹部の動きで剣を導くので、基本操作も難しいものです。
 練習や上達が難しいために、主流にはならなかったのだろうと想像します。

 ただ、この持ち方の強さにはもう一つ、脳の働きも関わっているのではないかと考えています。
 両手がくっつくことで、脳にとっては位置の情報が正確になり、力を入れやすくなるのではないかと。
 脳にはまだいろいろなことがありますね。

2019年10月10日木曜日

「中心から動く」の意味


 武術に限らず、運動は筋肉で骨格を動かすもの。
 しかし、人間の関節は、単体で強い力を出すのに不向きな構造になっています。

 図のように、関節を動かす筋肉がついているのは関節の根元。骨を一つのテコとして見ると、力点は関節に近く、作用点は骨の先端です。

 シーソーの原理でわかるように、先端の力は強く、根元の力は小さいもの。どんなに頑張っても、先端に伝えられるのは、筋肉の出す力の数分の一しかありません。

 では、どうやって大きな力を伝えるのか。
 一つ上、つまり体幹部側の関節を使うことで、関節の動きを助けます。 パターンは大きく分けて2つ。

①2つの関節を同じ方向に動かすことで、遠心力を利用する方法。

②逆方向に動かし、慣性を利用した回転で補助する方法。

 この動きに、本来の肘関節の力を加えることで、強い力を出すことができます。 さらに肩を体幹部の筋肉で…と連鎖させるなら、理論的には全身の力を手足に集中させることもできるはず。

 大事なことは、この関節を同じタイミングで使わないこと。①も②も、大きな関節と小さな関節を同時に使うと、小さな関節は負けてしまいます。

 中心が先に動いて、末端を後に使うことで、末端の負担を減らしてやれます。よく「中心から動け」というのは、単に体幹を使うという意味ではなく、こうしたタイミングをも含んでいるのです。

2019年1月7日月曜日

骨を斜めに使う…足では

 移動の話の続きです。
 前回、地面を蹴らずに移動するには、足の傾きを利用するという話を書きました。

 以前に書いた「骨を斜めに使う」は、足においても有効です。骨を斜めに使うことで、擬似的に、傾きを大きくすることができるのです。

 実際には、骨の上下にかかる力の位置を変えるのですが、力線が変わることで、足が傾いたのと同じ効果が出て、身体が前に進みます。
 メリットは、足の荷重を抜く(負荷をへらす)よりも小さな動作で、動きを開始できること。
 ちょっとしたコツの一つです。 

2018年12月30日日曜日

地面を蹴らない移動

 地面を蹴らずに移動するには「前方から引かれるように移動」などと言われたりします。実際に身体を引っ張っているのは、重力です。

 体重を、両足均等に支えているところから動き出す場合。
 最初の動き出しは、移動したい側の力を抜くことです。身体は支えを失って倒れてゆき、移動が始まります。
 しかし、全身で倒れるのでは、この動作は遅くなってしまいます。

 学校の掃除の時間に、ホウキを逆さまにして手のひらに立て、遊んだことはありませんか? あれは長いホウキだから簡単なので、短い棒(例えば金槌)ではうまくいきません。すぐに倒れてしまって、バランスが取りにくいからです。

 長さが短いと、僅かに動くだけで、大きく傾くことができます。
 例えば、長さ1.5メートルのホウキと、30センチの金槌があるとします。ホウキが30度まで傾くためには、ホウキの頭が80センチ動かなければなりません。しかし金槌が同じ傾きになるには、16センチ動くだけで十分です。
 倒れる力は、傾きが大きいほどに大きくなるので(横方向の分力が大きくなる)、短い方が加速が早くなる理屈です。

 倒れると言うよりも、腰が沈む感じ。「身体はまっすぐに」という、武術でよく聞くアドバイスは、このことを表したものかもしれません。

2018年12月16日日曜日

回らないで回る③ 縦に回る

 回転にも、縦回転と横回転があります。横回転は、水平方向の回転。この回転には手間がかかることは、以前も書いたとおり。
 同じ回転でも、縦の回転だと重力を利用できるので、モーメントを起こすのも止めるのも楽になるのです。


 左前の構えから一歩踏み出す時、体幹を水平に回すと、大きな抵抗を感じます。ところが、後ろ側(右側)の肩を腰を落とすようにして、左肩と腰の下をくぐらせるように回します(最初は、前体重の構えからが、やりやすい)
 感覚としては、振り子を持ち上げておいて落とすと、反対側に通り抜けてゆくような感じ。


 水平回転よりも、ずっと軽く回れることに気づくはずです。これは、重力によって回転を始められること、止めるのにも重力を使えることによるものです。


 ただ、この運動には、体幹部が柔軟なものだと意識する必要があります。体幹部を固い箱のように考えていると、動くことができません。
 まずは、肩と腰が柔らかく動かせるということを、より強く意識するところから始めます。

2018年12月12日水曜日

回らないで回る② 地面に頼らないモーメント

 回らないの意味は、地面からモーメントを受ける必要性を減らすことです。
 そこで、地面以外からモーメントを受ける方法があります。その一つは、腕、足などの内外旋でモーメントを作ること。
 内旋、外旋というのは、水平回転のことです。人体の場合、腕や足のねじりのことを指します。

  何かを押すと、自分も逆方向に押し返されるのが、反作用ですね。
 反作用は回転にもあり、何かを回すと、自分自身も逆方向に回転の力を受けます。

 簡単な実験です。
 片足立ちで「前へならえ」の格好をします。右か左へ腕を振ると、身体が反対方向に回るのがわかりますね。

 たとえば左前の構えを右前の構えに変えるとき。手を伸ばしたまま構えを変えると、体幹部に対して両手を右に振ることになり、体幹を左回しにする助けになります。

 足を前に運ぶときも、前足を内回し、後ろ足を外回しに軽く回しながら移動すると、足が出しやすくなります。
 面白いのが、まっすぐに立った姿勢よりも腰を落とした、つまり足を曲げた姿勢のほうが、反作用が大きくなること(モーメントの性質)。

 昔の格闘技の構えに腰を落とした姿勢が多いのは、こうした性質のせいかもしれない…というのは私の勝手な想像です。

2018年12月8日土曜日

回らないで回る①

 運動中に身体を回すには、モーメント(回転力)が必要です。しかし、地面を蹴って回ると、時間がかかる上に、動きを読まれやすいので、できるだけ地面には頼りたくありません。そこで出てくるのが「回らないで回る」です。

 合気道などで多用される、前足を軸にして、くるっと回る動作を例にします。

 普通に考えると図1のような足の動きになりますね。
 これは、身体から離れたところにある重量を回転させるのと同じ。加速にも減速にも、足を踏ん張って地面から力を受ける必要があります。


 さて、足を回すには地面から力を受けることが必要ですが、重心に向かって引き寄せたり、逆に押し出したりする動きは、地面から力を受ける必要がありません。

 そこで、足を回すのでなく、後ろ足を引き寄せてから、目的方向へ送り出します。重りを引き寄せて、その勢いで反対側へ飛ばす感じです。モーメントは、両足が接近したところで作用するだけなので、最小ですみます。

 また、この方法では回転が終わったところで止める必要もありません。動作の最後には、両足が広がって遠くにある「重い」状態なので、アンカーになってくれるのです。

 動いた結果としては回っているのですが、円弧を通らないことで、回ることについて回るモーメントを最小にしているわけですね。

 回る方法については、他にもまだまだ書くことがあったりします。体幹部を回らずに回す方法、地面に頼らずモーメントを作る方法、縦のモーメント等々。 
 次回以降、のんびりと。 

2018年11月30日金曜日

「踏ん張らない」の意味②

 前回に引き続き 「踏ん張らない」の解説。
 今回は、動作のときに踏ん張らないことについて解説です。

 そもそも、どうして足を踏ん張るのでしょうか。それは、物理でいう「反作用」に備えるため。

 壁を押したら、自分の身体が後ろに動きますよね。何かを前に押せば、その分だけ自分が後ろに押される。これが反作用です。
 剣を振ったり、拳を突き出したする反作用で体が後ろに倒れるのを防ぐために、足を踏ん張って支えるのです。
 逆に言えば、その踏ん張りがあるからこそ、剣や拳に力を乗せられます。

 しかしメリットが有るものには、デメリットがあります。
 足を踏ん張って動作を支えている間、足から手までは筋肉の緊張でつながっている必要があります。身体は固まり、動きは制限されます。足も動かしにくくなります。
 また、少し慣れた人なら、その緊張を見るだけで動きを読むことができます。

 「踏ん張り」をゼロにすることは不可能ですが、できるだけ力の出入りを少なくし、デメリットを減らすのが「踏ん張らない」の意味です。

 では、どうしたら地面との関わりを少なくして、自由に動くことができるのか。その答えの一つが正中線であり、正中線を理解するための条件が「モーメント」です。
 ということで、次回はモーメントの話。

2018年11月29日木曜日

「踏ん張らない」の意味①

 最後は「踏ん張らない」です。
 踏ん張らないことには「地面を蹴って移動しない」と、「動作のときに踏ん張らない」という意味の2つがあるので、一つずつ説明します。
 まずは、「地面を蹴って移動しない」です。

 最初に断っておきますが、動くのに地面から力を受けることは必要です。足で地面を蹴ることに頼りすぎないという意味で考えて下さい。

 さて、剣道の打ち込みなど、後ろ足で床を蹴って飛び出すとします。
 この場合、身体がぐにゃぐにゃしていると床を蹴った力が逃げてしまうので、身体を固め、一つの塊として前に飛ばすことになります。

 この方法は、2つの意味で効率が悪いです。
 武術的な意味では、身体を固めることで、動き出しが読まれてしまうことです。また、全身が一塊になって動いていると、動きがシンプルになって予測しやすくなります。
 なるべく部分部分が違う速度で動いて、動きを読みにくくするほうが有利。

 もう一つ、物理的な意味では、足の負担が大きくなります。
 物理的には、重いものほど慣性(止まり続けようとする性質)が強くなります。身体を一つの塊として一気に加速するには、大きな力が必要になり、足の負担が大きくなるのです。治療家として言えば、このように足に頼りすぎて、膝を壊してしまう人が多いのが気にかかります。

 身体を前に進めるには、いくつもの方法があります。 
 剣道で言えば、剣を振り上げる反作用で重心軸を前に傾ければ前進しますね。
 他にも、前足を抜いて進む方法、全身を崩すように進める方法、左右の差し替えで一部を進める方法などがあります。足で蹴って移動することにとらわれると、そうしたバリエーションに気づきにくくなります。
 足で蹴って移動しないは、「足を使わない」という意味ではなく、多くの身体操作のバリエーションに目を向けるという意味でとってもらえたらと思います。

 さて「踏んばらない」では、もう一つの「動作のときに踏ん張らない」の方も重要です。次回は、その解説を。

2018年11月27日火曜日

「うねらない」の意味

 前回の「ねじらない」に引き続いて、今回は「うねらない」の話。


 うねりは、身体を波打たせるようにして、力を伝える方法です。 ねじりが身体の弾力を利用しているのに対して、重量と加速の連動を伝達に使っています。大きな力を運ぶ有効な方法です。

 ムチと同じように、体幹などの重い部分から、手先などの軽い部分に伝達することで速度が上がってゆくのもメリットです。

 では、デメリットはなにか。
 速度と振動方向を持つという、波の性質そのものです。


 波の速度は伝達物質によって一定です。例えば音なら秒速340メートルで、あとから出た音が、前の音を追い越すことはありません。波が発生した時点で、到達の時間が決まってしまいます(人体の場合は、筋力を使うのである程度は調整が可能ですが)。
 到達のタイミングが限定されるので、足や体幹で起こした力が拳に伝わる頃には、相手が移動していることもあるわけです。

 また、波の振動方向は、一度決まれば変えられません。刀を右から振り下ろすつもりで身体をうねらせたら、そこから左に変えることはできないのです。

 動き出したら止まらない。タイミングの難しさと、変化の難しさというデメリットがあるので、うねりは武術的に使いにくいのです。

 余談ですが…。
 この記事を書くために、久しぶりに身体をうねらせる使い方をしてみました。2,3回試したあと、もとに戻そうとしたら、一瞬、どう動いていいかわからなくなりかけました。
 うねりの動きは、本能的に身体に染み付いているものなのだと実感した次第です。

2018年11月24日土曜日

「ねじらない」の意味

 私が学んだ甲野先生の松聲館では、「ねじらない、うねらない、踏ん張らない」ことを重視していました。

 ねじる、うねる(身体を波打たせる)、踏ん張る。どれも、大きな力を出そうとするときに、つい使ってしまいがちな動きです。
 当時は、それを使わない理由をぼんやりとしか理解していませんでしたが、今になってみると、どれも遅くならない、動きを読まれないための心得だとわかります。

・「ねじらない」の意味
 ねじらないと言っても、常に身体をまっすぐにしているわけではありません。ここで言う「ねじり」は、バネのように、力を溜めているねじりを指します。

 ねじることによってタメをつくり、大きな力を出す。パワー、スピードが必要なスポーツでは、普通の動作ですね。

 古武術でねじりを嫌うのは、時間差ができるからです。

 例えば、体幹をねじって動作するときには、下半身が先に動いて、上半身が遅れて動きますね。ねじりを見れば、そのあと上半身がどう動くかは、一見してわかります。パワーと引き換えに、時間の遅れと、動きの情報を相手に与えてしまうわけですね。

 また、こうして溜めた大きい力は、途中で変更が効きません。
 右拳を出すつもりで身体をねじったら、その力を左拳に使うわけにはいかないのです。剣術で、右から切り込む刀を、体捌きで左からの切り込みに変える技がありますが、こんな動作もねじって溜めた力では不可能。

 一般のスポーツでも、積極的にねじりを使うのは、野球やテニスなどの、相手と距離を置いて行う球技か、ゴルフのように自分のタイミングで動ける種目ですね。
 武術の場合には、ねじりのメリットよりもデメリットの方が大きいので、ねじりを嫌うのです。

2018年11月20日火曜日

古流空手で回し蹴りを使わないわけ

 正確に言うと、全く使わないわけではありません。ただ、前蹴り・横蹴りに比べるとずいぶん影が薄いです。
 現代格闘技ではメジャーな回し蹴りが、伝統的な空手の型に、ほとんど出てこないのはなぜでしょうか?

・前蹴りと回し蹴りの違い

 一本足で立ち、片足を浮かせた状態から前蹴りをすることはできますね。
 では、回し蹴りは?

 難しいですよね。これは、重心と足の移動方向の関係です。

 重心から遠ざかるか、近づく力に関しては、体重そのものが支えになります。前蹴り・横蹴りは、重心からスタートして、外へ向かう一直線の動きなので、体重を支えにして、不安定な状態からも打ち出すことができます。引き戻すのも同様。

 それに対して、回し蹴りは回転です。
大重量の足を加速するためには、一度地面を蹴って、身体に回転力を蓄え、それを足に伝える必要があります。前蹴り、横蹴りよりも一手間増えるわけですね。
 また慣性の法則が働くため、一度回りだしたものは、回り続けようとします。地面を蹴って身体が回り始めれば、その回転によって次の動きは限定されます(例えば、図のように身体が左回りに回っているときに、左からの攻撃を出すのは、ほぼ不可能)。

 加速の時間が長い上に、行動が限定される。回し蹴りは、強力である反面、自由を失う技なのです。

 現代格闘技は一対一の戦いが基本なので、タイミングを選ぶことで、強力な武器になります(最強の回し蹴りを持つと言われるムエタイも、一対一の戦いで完成された格闘技)。 しかし、多数が相手の乱戦を想定すると、動きを予測されやすい技を使いにくかったのではないでしょうか。
 戦う環境が、技の構成に影響する例ですね。

仮想の支点を作る

 前回は、一部の関節が逆に動くことによって、かえって早くなる場合があることを書きました。例に出したのは、ボクシングのジャブ。
 今回はその続きで、肩関節が後下方に動くことで、肘の伸展が速くなる理由の話。

・モーメントとは

 右の図を見てください。長い棒の端を持って、もう一端を持ち上げるのと、真ん中に支点がある棒を回すのとでは、どちらが楽でしょうか? もちろん、回すほうですよね。

 回転力は、モーメントという言葉で表されます。長さと力の大きさをかけたもので単位はNmです…というと難しそうに見えますが、基本的な原理はシーソーと同じ。
 支点から遠くにあるものは動かしにくく、支点から近いところにあるものは動かしやすいのです。

 では、これを踏まえてジャブの打ち方を見てみると、どうなるか。

・関節が支点でなくなる時

 上の図が、全体が前に出る時。肩も肘も、棒の端を持って動かすときと同じように、力が入りにくい状態。

 下の図の右側、肩の部分が後下方に引かれると、上腕部はそこで回転運動を起こします。肘関節は前上方に上がり、今度は前腕部を回転させます。それによって、拳は前下方に向かって出てゆきます。

 先程の棒の図と違うのは、支点がないこと。この運動の支点は、上腕や前腕そのものの重心です。物体には慣性の法則が働き、止まっているものは止まり続けようとします。重心は止まり続けようとする力で支点の代わりとなって、回転運動を支えるのです。

 すべての運動は、移動と、回転運動によってできています。そう考えると、動作を分析的に見やすくなります。

骨を斜めに使う

 さて、前々回は、効率の良い運動のために、伸筋を上手に使うコツを書きました。今回は、骨の使い方です。

 人間の身体は、骨が関節でつながって構成されています。そして、骨には歩太さ、つまり「幅」があります。

・骨の対角線を意識する


 軽く屈伸(スクワット)をして、その感触を覚えておいて下さい。
 次に、ちょっとイメージします。「股関節の前と、膝の後ろを結んだ直線」と、「膝の後ろから、足首の前側を結ぶ線」を意識します。イラストに描いたオレンジ色のラインですね。
 この二つの直線を意識して屈伸すると、イメージする前よりも伸ばすのが軽くなったと感じませんか?

 骨の中心を通る線は、青のライン。オレンジのラインは、骨の中を通る対角線です。
 青とオレンジを比較すると、体重をかける場所が変わることで、大腿骨を短く使うことになり、また関節の曲がり角度が緩やかになるので、力が入りやすくなります。
 図ではわずかなようですが、この差は意外と大きいので、工夫すると楽しいです。

・治療にも役立つ、斜めづかい
 八起堂の治療では、患者さんの関節を大きく動かします。その時に、斜めのラインを意識して使うことで、患者さんの力とぶつかることが減ったり、関節の連動に影響を与えることができたりと、治療でも有効だったりします。
 興味のある方がいらしたときには、そんな説明もさせていただいてます。

2018年11月19日月曜日

関節技を効かせる「のれんに腕押し」…小手返しを例に

 以前に書いたように、掛け手が脱力してみせると、受け手も脱力してしまうのが人間の性質。この戦略的脱力(?)には、他にも様々なバリエーションがあります。

 たとえば、小手返しを例にとって、運動線を選んで脱力する方法を紹介しました。今回は、全身の動きで行う方法を紹介します。

・身体を動かして「のれんに腕押し」
 掛け手が技をかけようとするとき、受け手は押し返そうとするので、二人の力が拮抗します。

 そこで掛け手は、受け手の力に流されるようにして、自分の身体を移動してしまいます。受け手は、押していたはずの相手がスルッと動いてしまうので「のれんに腕押し」の錯覚を起こし、脱力してしまいます。掛け手は、その間に技をかけるというわけ。
 錯覚を起こさせるための身体移動は、わずかに数センチでもOK。 

 身体を移動するには、腰や足の脱力で上体だけを流す方法と、足を使って全身を移動してしまう方法があります。

 この方法、一見簡単そうに見えますが、実は頭の切り替えが必要です。
 私達は動作をするときには、足を踏ん張って地面を支えに動くことが多いです。全身、あるいは上体が流れた不安定な状態で技をかけるには、ちょっとした慣れが必要になります。
 この話は、あとで書く正中線の話で、また詳しく。

関節技を効かせるコツ…相手より強い関節で攻める

「相手に力を出させない」話をしていますが、ちょっと脱線。
 前回の、運動線のコントロールは、普通に関節技を掛ける場合にも有効なのです。

 また、小手返しを例に取ります。
 小手返しは、手首をきめるのが重要な技ですが、初心者だと受け手が頑張ってしまい、動かせなくなることがあります。これは、掛け手が手首の力を使って受け手の手首を曲げようとするときに、よく起こる現象。
 手首と手首、同程度の力がぶつかって動かせなくなるのです。

 そこで出てくるのが、運動線のコントロール。
 掛け手は手首を動かさず、腕と肩を使って受け手の手首を中心とした円弧を構成します。
 これは一種のテコの原理で、受け手の手首の関節に対して、掛け手は腕、肩の長さのテコにより有利になり、技がかかるというわけ。

 運動線が不明瞭だと、技はかかりません。
 そこで、受け手が技をかわすには腕・肩を動かして、掛け手の作る円弧を潰し、自分が掛け手より有利になる円弧を作るように動きます。

 筋力で不利であっても、より有利な円弧を取れば勝てる。これが「力よりも技」と言われる技術の一端です。さらに、相手の脳や反射にまで働きかけることで、技術を高めることができる。
 それが、技を追求する面白さなのです。

2018年11月18日日曜日

相手に気配を感じさせない、関節技の基本

 人間は、受けている力に合わせて、自分の出す力の大きさを調節しています。
 だから、自分から力を抜くことで、相手の力を抜くことができます。

 といって、こちらが完全に脱力したのでは、何もできなくなってしまいます。そこで、力と脱力を同居させる方法の解説です。

・まずは、握らないこと

 何かを動かそうとすれば、しっかり握る。普通なら当たり前のことですが、ここではそうなりません。握るというのは、相手にもっとも近いところで力むこと。力みが伝われば、相手は固くなります。

 だから、基本的には握らない。たとえば手を持つ場合でも、包むように、添えるように持つ。そして、動かしたい方向に向けて押すことで操作します。
 動かす方向を変える時には、持ち直すときに強い力がかかるのを避けるため、手の一点を中心に滑らせるように回すと、滑らかに変化させられます。
(図は、この説明ですが、わかりにくいかも…)

 合気道などでは、これを使ってやわらかく技をかける感じ。 
 マッサージでも同じ。施術者が力むと、患者さんも力んでしまいます。肩こりを強く揉むと余計に筋肉が固くなって逆効果。かえって筋肉を傷つけてしまうので、こうした技法で動かすのがおすすめです。