2019年7月2日火曜日

スタートダッシュを0.1秒縮める

 前回書いた「筋肉の遊び」は、他の場面でも見られます。もちろん、こうした遊びによるタイムロスを減らせば、スポーツでは有利ですね。

 例えば、陸上のスタートダッシュ。学生スポーツなどでは、スタートの合図とともに、全身にグッと力が入り、それから動き出す選手がいたりします。これも、止まっていた筋肉が動き出す前に「あそび」があるからで、損している選手は少なくないと思います。

 この対策の一つに「動き続ける」ことが挙げられます。
 動き続けるといっても、バタバタするというのではありません。スタートする前に、微速度で動き出してしまうのです。一秒に数ミリというような、動いているのかいないのかわからないくらいの動きです。

 微速度でも、筋肉はすでに動き出す司令を受けているので、全身のあそびは少なくなっています。そのため、スタートの合図が出た瞬間に、あそびが無い分だけ、早く出られるというわけ。

 すでにやっている方も多いかもしれませんが、もし意識したことがなければ、試してみるのも面白いと思います。 

2019年6月27日木曜日

射撃での手ブレを防ぐ

前回は、一拍子の動きの話。

別々の場所を同時に使うことで、筋肉によるあそびが減らせるという動きについて書きました。

 この、別々の動きを同時にという方法は他にも使いみちがあります。面白いところでは、精密な動作での手ブレの予防。
 
 かなり前のことですが、レーザーガンの射撃をやらせてもらったことがあります。
 射撃競技には、実際の弾を飛ばすのではなく、光線による電子的な射撃を競う競技があります。弾の出る銃と違うのは、狙っている間も銃がどのように動いているか、画面上でモニターできることです。

 自分では静かに狙っているつもりでも、パソコンの表示では、銃口がフラフラしています。
 筋肉のあそびがあるために、銃口をわずかに動かしたくても大きく動いてしまうのが原因です。


 そこで前回書いたような、二箇所を同時に使う方法を試してみました。体幹を左に回しつつ、肩を右に向かって開き、相殺させることで銃口を安定させようとしたのです。
 この方法を取ると、画面上で見ても、左右のブレがかなり小さくなっているのがわかりました。
 指導してくださった方によると、初心者にしては、なかなかのものだったそうです。


 止めようとするのではなく、動き続けることで、かえって安定する。矛盾するようですが、これも人間の身体の構造によるものです。

2019年6月14日金曜日

一拍子の動きとは何か?

 前回、連続的な動作には一拍子の動きが必要と書きました。
 一拍子とは、一回の動作ですべてが完結すること。複雑な動作が一回で完結するとは、どういうことなのか?

・筋肉には「あそび」がある
 「あそび」とは、力が伝わらない範囲のこと。
 車のハンドルを左右に動かすと、1~2センチほどガタガタと動くのはご存知だと思います。これがあそびです。車の場合は、ハンドルの動きがすべてタイヤに伝わると、かえって運転しにくいので余裕をもたせてあります。

 「行って返って」が難しいのは、筋肉にも「あそび」があるからです。
 例えば、手を上下する場合に、肘で往復するとします(上図)。

 肘を曲げるときは、肘の内側の筋肉が縮みます。このとき、外側の筋肉は緩んでいますね。

 次に伸ばそうとすると、外側の筋肉が縮みはじめます。ところが、肘はすぐに動き出しません。

 外側の筋肉は先程まで緩んでいたので、緩みがなくなるまでは腕に力が伝わらないのです。屈伸のたびに、筋肉の緩み分(正確には、関節も)タイムロスが生じます。そのため往復の動作をすばやく行うのは難しいのです。

・一拍子とは、一方通行の組み合わせのこと
 では、どうするか。往復の動きを、分業すればいいのです。先程の手の上下で言うと、上げるのを肩、下げるのを肘で行う。こうすると、どちらの筋肉の動きも一方通行なので、緩みから張るまでのタイムロスがありません。ついでにいうと、上げ終わる前に下げ始める(逆の動きの重ね合わせ)ことで、さらにロスを減らすこともできます。

 つまり一拍子の動きとは「一方通行の動作をタイミングをずらして組み合わせることで、タイムロスを作らない動き方」です。

・すり抜ける影抜きの動きを表現してみます

①切り込みは、腕と肩甲骨の回転に、体幹の差し替えで行います。
②止めるための移動を、肩甲骨の右前方への移動で行い、その反作用は体幹部で吸収します。
③跳ね上げを左半身の沈めで行い
④戻すのは、重力を中心に、動き出しは体幹の慣性で行います。
(本当は、もっと細かい操作も行っていますが、主になる部分だけを取り出しています)

 動作は、どれも一方通行で、往復している部分はありません。腕が①と④で二回働いているように見えますが、切込みは②③の間、遅くなっているだけで一回の動き。これも、動作の重ね合わせの一つです。

 もっと上手くなると、一方通行の組み合わせが循環するようになって、切れ目なく連続した動作になると思うのですが、私はそこまで達していません。

2019年6月6日木曜日

影抜きの方法論② 目標を飛び越す影抜き

 影抜きにはもう一つ、立ててある棒を斬ると見せて、飛び越すものがあります。ちょっとみると、刀が棒を通り抜けたように見えて面白いものです。
 この技は実戦で使う技ではなく、身体の使い方をみるためのテスト的な意味合いが強いものです。なぜテストになるのかといえば、空中に支点を作りつつ、いくつもの動作を重ねて行う、多重操作が必要な技だからです。

 具体的な動きは、上図のようになります。
 右上から切り込んで、目標に当たる直前で刃を真上に跳ね上げ、目標を通り越したところで元のコースに戻る。

 途中の動きを分解して解説すると、次の図のようになります。薄い色が操作前、濃い色が操作後の位置です。

 
①右上から、回らない動きで切り込む
 
②目標物の手前で、刀と腕を切っ先方向へ送って止める。
 前回書いた方法です。送る方向は、袈裟斬りの都合上、やや右方向。その反作用は、体幹を左へ送って吸収します。

③それと同時に、左半身を沈め、柄頭を引き込むように下げます。刀の重心が仮の支点になり、剣先が跳ね上がります。
 
④目標を越えたところで柄を前に出すと、重力の作用で剣先が下がります。元のコースまで下りたところで体幹の左運動を使って進ませます。
 
 操作としては、柄を前後に操作する感じですね。図で見ると、結構簡単そうですが、高速で行うのは、かなり難しいのです。
 というのは、この前後の動きを腕で行おうとすると、「行く 戻る 行く」という、三拍子の動きになって、刀の速度についていけないからです。
 実現するには、隙間のない一拍子の動きを使わなくてはなりません。

 次回は、一拍子の動きについて。

2019年6月3日月曜日

「影抜き」の方法論1.5 刀を止める力学

 次の、目標物を飛び越す影抜きの前に、刀を止める方法について書かなくてはなりません。いわゆる寸止めです。

・前提…回らない打ち込み
 とはいえ、足を踏ん張って全身を回しながら打ちこむと、体重と刀を合わせて60キロ、70キロの物体の回転運動になりますね。そんな運動を止めるのは難しいので、回らずに打ち込むのが前提です。

 ではどうするか。
 以前に、居合の刀の動きについて書いたように、刀は全体として前回転しながら、目標に向かって運動している動きです(上図)。

・刀は一直線になると止まる

 この動きでは、刀は前下方に向かいつつ、前向きに回転しています。 

 全下方に向かっているそこで刀の回転にのるようにして柄を浮かせてやると、刀が振り切られる前に重心と柄の位置が一直線になり、これ以上回転できなくなって、切っ先が止まります。
 また、前方に向かっていた慣性のエネルギーも、腕を引っ張るだけの直線運動になるので、体幹の重さで簡単に止められるのです。

・中心からの距離と回転
 さらに、刀が前方に伸びることには、もう一つの意味があります。

 刀全体の動きはカーブ(円弧)を描いているので、前方に伸びるのは、遠心力によって中心から離れてゆく、いわば投げ出される動きです。

 以前モーメントの話で書いたように、回転しているものは、中心からの距離が遠くなると、回転が遅くなります(スケート選手が、腕を広げることで回転を止めますね?)
 刀と腕全体の回転運動も、回転の中心から遠ざかることによって減速し、容易に止められるようになるのでした。

 さて、これで「目標をすり抜ける影抜き」の準備ができました。

2019年5月19日日曜日

「影抜き」の方法論①…刀の軌道を変化させる技

 打ち込む太刀筋を、空中で変化させる技があります。甲野先生は「影抜き」と呼んでいました。

 例えば、右袈裟に切り込んだ剣を、相手の剣にぶつかる寸前で左袈裟に変える技。
 その他、デモンストレーション的な技ですが、立ててある棒に切り込むように見せながら、コースを変えて棒を飛び越す技も。速度次第では、剣が棒を通り抜けたかのように見えます。

 こうした剣の使い方にも、もちろん理論があります。

・右袈裟を左袈裟に変化させる影抜き

 この変化は、空中に支点を作る動きの一つです。


 刀を右から切り込む動きから、刀の重心を中心として鼓形に回すイメージになります。

 具体的には、切り込みの途中で刀の重心(鍔の部分より少し上)を中心に、
柄を前⇒右へと、右まわりに引き込みます。

 柄を前に押し出すことによって、剣尖の動きは止まり、次の右回りの動きで、弧を描くように左からの切込みに変化します。


 回すイメージは鼓形ですが、剣全体の重心は前下方へ進み続けているので、右図のようなコースを描きます。
 刀の運動エネルギーの多くは重心の移動なので、止めたり変えたりするのは大変。重心の運動はなるべくそのまま、重心を軸に回転させるだけなので、容易に行えるのです。

 なお、柄を右へ引く動きを腕で行おうとすると、キレの悪い動きになります。この回転は腕で作るのではなく、体幹の左右を差し替えて(右肩が前になっていたのを左肩が前になるように入れ替える)行います。水鳥の足(浮身)を使うと、差し替えが楽です。
 あくまで腕と体幹を別々に使うことが条件になります。

2019年5月6日月曜日

体幹部をもっと使うために ③ 骨盤

 体幹部で気をつけたいところの一つが、骨盤です。実は一つの骨ではなく、3つの骨が寄り集まってできているので、ほんの少しだけ動きます。

 図にある仙腸関節と、恥骨結合(矢印)が、に柔軟性があって動きます。

 この骨盤の動きには3つの役目があります。
 一つは、ショックアブソーバーとしての役割。
 骨盤を囲んでいる靭帯の弾力によって、衝撃を吸収します。

 2つ目は、体幹部の運動を助ける役目。靭帯と足の筋肉で支えられた構造なので、体重の移動にともなって動いてくれます。例えば、右側に体重をかけると、仙骨の右側が沈んで、曲げを助けます。

 3つ目は、股関節の動きを助けて、足の動く範囲を広げてくれます。身体が固い、という人は、骨盤の動きも悪いことが多いです。

 こうした骨盤の動きを意図的に使うのは簡単ではありません。とはいえ「骨盤が動く」と知っているだけでも動きは変わるもの。今度、腰を動かすときには、ちょっと意識してみて下さい。 

スタートダッシュを0.1秒縮める

 前回書いた「筋肉の遊び」は、他の場面でも見られます。もちろん、こうした遊びによるタイムロスを減らせば、スポーツでは有利ですね。  例えば、陸上のスタートダッシュ。学生スポーツなどでは、スタートの合図とともに、全身にグッと力が入り、それから動き出す選手がいたりします。これも、...