2019年3月1日金曜日

物理的に考える正中線⑧ 正中線の練習2

 サッカー選手の足は、他のスポーツ選手の足よりも器用ですね。手を使わないというルールが足の発達を促すのです。

 同様に。
 動きの中で正中線を作るには、動きにいくつかの「しばり」(制限)を作るのが有効です。正中線の結果となる条件を意識することで、身体の使い方が変わってきます。

 最初のしばりは、3つ。踏ん張らない、体幹を固めない、できるだけ楽な動きを探す、です。

①踏ん張らない
 動作前に、足を踏ん張って身体を支えないこと。
 普段私たちは、地面の助けを借りてバランスを取っています。あえて地面の助けを断つことで、身体内でバランスをとる動きが育ってきます。

②体幹を固めない
 正中線の維持には、体幹部の働きが必要です。体幹を固めて支えにするのではなく、積極的に動かして反作用を吸収します。
 体幹を動かすと目印としては、肩甲骨の位置、骨盤の角度、肋骨の高さ(呼吸で変わる)、脊椎の曲がる位置(どの位置で曲げたり反ったりするか)などがあります。あとは表面の筋肉の緊張など。
 このあたりについては、詳しく書いたほうが良さそうなので、別の機会に詳述します。

 なお、「うねらない、ねじらない」はここでも大事です。うねり、ねじりは強力に力を伝える方法ですが、全身がその目的に参加するため、体幹の自由な動きを妨げます。

③力まない
 このブログの「仮想の支点を作る」で書きましたが、動きの支点となる関節が固定していると、大きな力が必要になります。力強いと感じられる動きは、大抵の場合、効率が悪い動きです。

 コツは、主な関節だけでなく、できるだけ多くの関節を動きに参加させること。身体を柔らかく保ちつつ、固まっているところがあれば動かすようにして、軽い動きを発見していってください。

 こうした制限をつけて動いていると、試行錯誤の数に比例して、技術が向上します。


2019年2月18日月曜日

物理的に考える正中線⑦ 正中線の練習1

 正中線は、意識して訓練する必要があります。
 教えてくれる先生についている人はいいのですが、そうした機会に恵まれていないこともありますね。
 そんな場合はまず、身体を柔らかくすることから始めてみましょう。

・正中線は「安定させる能力」
 「肩の力を抜け」とか、「力まない」ということは、武術でもスポーツでも、うるさいほど言われますね。それだけ、私たちは身体を固めがち。
 「固いほうが、重いほうが、動かないほうが強い」と、本能的に考えてしまうからです。
 普通にイメージする「安定」は、例えばピラミッド型の石が、ドンと置いてあるような感じではないでしょうか。広い面で安定、押しても引いても動かない安定感。しかし「動かない」は、見方を変えれば「動けない」ですよね。

 正中線は、形のある線ではありません。本来なら安定しないものを、絶え間ない調整によって安定させる「能力」なのです。

・まずは、立つことから
 安定させる能力は、固い安定をやめることで鍛えられます。

 立ち方は、自然体でも何でも、楽な方法で。
 立ったまま、身体の力を抜いてゆきます。当然、身体はぐらついてきますね。この時、足を踏ん張るのではなく、体幹を動かして、バランスを取ります。手足にあまり頼らないのがポイント。
 踏ん張らないために、バランスディスク(写真のような、空気の入ったクッション)や、重ねた座布団に乗るのも、一つの方法です。

 最初は「おっとっと!」という感じの、単純で大きな動きです。それが、練習をしてゆくと、多くの部分が小さく動くようになり、狭い範囲でバランスがとれるようになってきます。はたから見ていると「なんだあの気持ち悪いぐねぐねした動きは!」となるので、人の居ない場所がおすすめ。

 ある程度なれてきたら、動きの中でバランスを作ってゆくことになります。

2019年2月10日日曜日

物理的に考える正中線 余談 正中線ダイエット

 理論的には、完成された正中線があれば、重心の移動が最小限ですみ、エネルギー消費が少なくなるはずです。

 ただ、実際のところは、そうなりません。少なくとも、正中線を身につける途上では、恐ろしいほどにカロリーを消費します。
 というのは、体幹部を含め、全身の筋肉が動き続けるからです。

 筋肉は、動く時にエネルギーを消費します。
 正中線の維持には、体幹を含め、全身の筋肉が細かな伸縮を繰り返します。とくに、初期の段階では、バランスをとるための動作が行き過ぎてしまい、またバランスをとり、その動作がまた行き過ぎて…と、絶え間なく筋肉が作動するので、立っているだけで、とてつもなくエネルギーを消費します。
 
 個人的な体験ですが、私が正中線を意識して練習すると、明らかに呼吸量が増えるのがわかります。そして、一週間で1,2キロ、体重が落ちてしまうことも。
 練習中だけでなく、バランスをとる習慣がつくことで、エネルギー消費量が増えるのだなあと実感するしだい。

 これ、「正中線バランスダイエット」とか言って体系化したら、需要がありますかね?

2019年2月9日土曜日

物理的に考える正中線⑥ 正中線のデメリット

 正中線のデメリット。なんといっても「身につけるのに時間がかかること」です。

 運動は、脳で筋肉を動かすものです。操作する筋肉の数が増えるほど、操作が精密になるほど、脳の仕事は増えてゆきます。


 筋力で身体を支えて動くと、脳は楽です。
 例えば刀を振るなら、
「足を踏ん張って支え、進行方向に向かって体幹、肩、腕の筋肉を動かす」。
 もちろん微調整はあるでしょうが、基本的には使う筋肉を決めて「ON!」の指令を送るだけ。

 これが正中線のバランスを保ちながらだと、
「刀と腕が前に向かう時、肩を引いて支点をずらしつつ、下半身を前に送り出して釣り合わせ、刀の動く方向が前方から下方に変化するのに合わせて、体幹を沈めて前後のバランスをとって…」
 みたいな状況になります。もちろん、その動きは身体各部の重さや長さ、位置に合わせた厳密なもの。
 脳は、たくさんの筋肉に絶え間なくON・OFFの指令を送り続けなくてはなりません。これだけの情報を、リアルタイムで処理するのは不可能なので、パターン化してインプットする必要があります。

 これが、正中線を身につけるのが難しい理由です。
 身体の動きに応じた膨大なバランスの組み合わせを覚え込み、自動的に身体が動くようになるまで、練習を繰り返さなくてはなりません。筋肉を鍛えるよりも多くの時間を必要とします。
 しかも筋力と違って、練習の取っ掛かりを見つけるのが難しく、結果が出るにも時間がかかります。

 それなりのモチベーションを保たないと、なかなか続けるのは難しいかもしれません。

2019年2月5日火曜日

物理的に考える正中線⑤…正中線をもつメリットは

 正中線があると強い、と言われるのはどうしてでしょうか?
 全身のバランスを取る能力、という正中線の性質から考えてみます。

①バランスが崩れにくい
 これは言うまでもないですね。
 正中線は、バランスをとる能力。一部の動きでバランスが崩れても、別の部分で瞬時に補うので、全身の崩れを起こしにくくなります。

②「居付き」が起こりにくい 
 武術では、身体、とくに足元の動きが止まることを「居つく」と表現します。
 私たちが普通に動くときには、地面を支えに動きます。例えば、刀を前に振り下ろせば、身体は反作用で後ろに押されます。そのため足で支えるのですが、支えている間、足は動かせなくなりますね。
 正中線があるのは、動きの反作用を別の動きで相殺できるということ。身体各部の慣性力を使って反作用を処理できます。その結果、地面に踏ん張る動作が最小限で済み、足を止める時間が短くなるのです。

③動作が自在になる
 おそらく、これが一番の利点でしょう。
 正中線は、重さ・距離・加速度を自由に組み合わせてバランスさせる能力です。その能力は逆に、バランスをわざと崩して運動を作り出すためにも使えます。
 たとえば、太刀筋を途中で変えたり、密着した状態から大きな力を出したり(寸勁みたいなもの)といった動作をやりやすくなるのです。移動のときも、地面を蹴るのではなく、正中線を傾けることで動き出せたり。
 いろいろな動作の自由度が増すので、攻撃も防御もバリエーションが増えます。

④「見えない動き」のもとになる
 正中線を構成するには、身体の多くの部分を、多方向に動かすことが必要です。この動きそのものが、読まれにくい動作、いわゆる「見えない動き」のもとになります。詳しくは、別の機会に。 

⑤相手の動きを感じ取ることができる
 私たちの脳にはミラーニューロンと呼ばれるシステムがあり、他人の動作を見ると、あたかも自分が動作しているかのように反応します。ただし「自分が動作しているように」ですから、自分ができない動作には、正確に反応できません。
 つまり、身体を操作する能力が上がるほど、他人の動作を正確に読み取れることになります。 
 正中線を持つためには、全身の精密操作が必要です。正中線そのものではなく、正中線を構成できるだけの操作能力が、動きを見られるようにするのです。

 余談ですが、治療家として仕事をするにも役立つ能力です。


 ざっと思いつくだけで、正中線にはメリットがたくさんあります。
 では、どうしてそんな便利な正中線が、一般化しないのか。もちろんデメリットがあるからです。次回は正中線のデメリットを。

2019年1月27日日曜日

物理的に考える正中線④ 正中線は、釣り合いの範囲

 さて、前回、前々回と書いてきたように、質量と距離と加速度は、相互に交換できます。
 外見的な形が左右対称でなくても、部位によって動く速度が異なっていても、身体各部の質量、中心からの距離、加速・減速を把握することで、釣り合いを保つことができるのです。

 こうしたバランス自体は、誰でも使っているもので、それほど珍しくはありません。
 たとえば、剣道の打ち込みで前に出る時、竹刀を持ち上げる動きを使うと、身体の軸が前に傾くため、スムーズに進むことができます。
 錦織圭選手の「エア・ケイ」でも、ラケットを振り下ろす瞬間に足を前に出すことで、モーメントの打ち消しを行っているのがわかります。
 もっといえば、走るときに足と逆側の手がでるのも、モーメントを打ち消してバランスをとっているのです。 

 ただ、正中線では、バランスを取る動きを、なるべく小さい範囲で収めようとします。


 バランスの範囲が小さくなるには、多くの場所を細かく使う必要があります。たとえとして、ベクトルの分解図を使いましょう。

 上の図では、青の矢印と釣り合いを取るために、赤の大きな矢印一本の力を使っています。

 しかし、下の図では、四本の(①を分解したもの)で、釣り合いを取っていますね。数が増えた分、矢印の長さが短くなっているのがわかると思います。

 実際の正中線では、これにモーメント(回転)や、質量による慣性が加わるので、もっと複雑になりますが、基本的な原理は同じです。

 大きな動作の反作用を、小さな動作の組み合わせで支えることができる。一つ一つの動作が小さいほど、動きの気配は少なくなりますし、加減速が容易で、負担も少なくなります。

 釣り合いのバランスが正確で、ブレが少ないほど、効率よく力を使うことができます。身体操作に熟達し、バランスの範囲が線と呼べるほど細くなったのが、正中線だといっていいでしょう。

 正中線のもつメリット・デメリットについては、次回。

2019年1月22日火曜日

物理的に考える正中線③ 重さと加速度はお互いに変換できる

 前回は、静止状態でのバランスでした。しかし、手足を動かす時の、加速や減速も、バランスに影響します。

 エレベーターで上に向かう時、動き出しに身体が重く感じますね。これは、加速による力を、重さとして感じるからです。
 この力は、加速が急なほど大きくなります。月に行ったアポロ11号の時には最大で体重の9倍の重さがかかったそうです。
(アポロの加速を計算してみたら、止まっていた新幹線が、1秒で時速280キロになるくらいの加速でした。きびしいですね~)

 つまり、加速・減速が急であれば、重さが何倍にもなったのと同じ効果があると言えます。

 右は、シーソーの図です。体重より重い荷物でも、ジャンプによる加速の反作用で体重が増えたのと同じことになり、一瞬だけは釣り合わせることができるのです。

 つまり、一瞬だけですが、加速度によって重さを変えることができるのです。

 人体で言うと、重量のある体幹部に対して、腕一本でもバランスをとることができるのです。
 右腕を挙げるときは「腕の質量×加速」分の抵抗で、右腕が重くなったのと同じ作用を起こします。止めるときには、加速された腕の慣性力(動き続けようとする力)によって、右腕が軽くなったのと同じ作用をします。

 水平方向でも同じです。腕を水平に前に振ると、体幹部は逆方向への反作用を受けます。腕をゆっくり加速すれば、反作用は小さいままですが、急速に振れば、体幹部の受ける反作用は大きくなります。

 前回、距離と重さは相互変換できると書きましたが、加速度と重さも相互変換できるわけです。
 これで、正中線に必要な道具が揃いました。

物理的に考える正中線⑧ 正中線の練習2

 サッカー選手の足は、他のスポーツ選手の足よりも器用ですね。手を使わないというルールが足の発達を促すのです。  同様に。  動きの中で正中線を作るには、動きにいくつかの「しばり」(制限)を作るのが有効です。正中線の結果となる条件を意識することで、身体の使い方が変わってきます...