前回は、一部の関節が逆に動くことによって、かえって早くなる場合があることを書きました。例に出したのは、ボクシングのジャブ。
今回はその続きで、肩関節が後下方に動くことで、肘の伸展が速くなる理由の話。
・モーメントとは
右の図を見てください。長い棒の端を持って、もう一端を持ち上げるのと、真ん中に支点がある棒を回すのとでは、どちらが楽でしょうか? もちろん、回すほうですよね。
回転力は、モーメントという言葉で表されます。長さと力の大きさをかけたもので単位はNmです…というと難しそうに見えますが、基本的な原理はシーソーと同じ。
支点から遠くにあるものは動かしにくく、支点から近いところにあるものは動かしやすいのです。
では、これを踏まえてジャブの打ち方を見てみると、どうなるか。
・関節が支点でなくなる時
上の図が、全体が前に出る時。肩も肘も、棒の端を持って動かすときと同じように、力が入りにくい状態。
下の図の右側、肩の部分が後下方に引かれると、上腕部はそこで回転運動を起こします。肘関節は前上方に上がり、今度は前腕部を回転させます。それによって、拳は前下方に向かって出てゆきます。
先程の棒の図と違うのは、支点がないこと。この運動の支点は、上腕や前腕そのものの重心です。物体には慣性の法則が働き、止まっているものは止まり続けようとします。重心は止まり続けようとする力で支点の代わりとなって、回転運動を支えるのです。
すべての運動は、移動と、回転運動によってできています。そう考えると、動作を分析的に見やすくなります。
古武術の技法には、一見不思議に見えるものがあります。そんな技法も、脳の情報処理と、物理学の観点から解説すると、意外にわかりやすいもの。 甲野先生の松聲館で学んだ技法をもとに、日々の患者さんへの施術で気づいたことなどをまとめてゆきます。
0 件のコメント:
コメントを投稿