広告

2020年4月29日水曜日

剣の「バット持ち」は意外に強い

 剣の持ち方、たいていは両手の間隔をあけて、鍔元と柄頭を持ちますね。現代剣道も、この持ち方です。

 その一方で、野球のバットを持つように、両手をくっつける持ち方もあります。
 夢想願流の伝書には両手をつけている絵が描かれていますし、天然理心流の伝書の一部にも「左右の手を付けて持つなり」という記述があるそうです。

 甲野先生も、もっぱらこの持ち方で、そのまま鍔迫り合いで相手の剣を抑え込んだりしますね。

 両手をつけて持つ、この持ち方。一見、力が入りにくそうに見えますが、力学的には合理性があります。

・三角形と、ねじれ四角形

 わかりやすく図にしてみます。
 上図が、それぞれの持ち方の模式図。拳がドラえもんの手のようになっているのはご容赦下さい。

 下図は、体幹部を加えて、直線で表したもの。
 左の図が三角形になっているのに対して、右側の図は四角形をねじった、不安定な立体になっているのがわかりますね。

 三角形(トラス)が、外力に対して強く、歪みにくいのは、ご存知の通り。
 四角形、それも、ねじれた四角形は極めて外力に弱く、簡単に変形してしまいます。

 両手を離して持つ方が力が入りそうですが、それはあくまで「右手で押し、左手で引く」という動作に限った話。
 横からの力については「伸ばした腕を横から押される」のと同じで、テコの原理的に、弱くなってしまうのです。

・両拳をつけるのが強い理由

 両拳をつけて持つ場合、拳の触れる場所を頂点として、三角形が形成されます。変形しにくい三角形を体幹が支えることで、拳のねじれが防がれて、強い力に耐えられるのです。

 ただ、この持ち方では「右手で押し、左手で引く」という、テコを使った操作ができません。
 腕で剣を振るのではなく、体幹部の動きで剣を導くので、基本操作も難しいものです。
 練習や上達が難しいために、主流にはならなかったのだろうと想像します。

 ただ、この持ち方の強さにはもう一つ、脳の働きも関わっているのではないかと考えています。
 両手がくっつくことで、脳にとっては位置の情報が正確になり、力を入れやすくなるのではないかと。
 脳にはまだいろいろなことがありますね。