表題の通り、ブログ内容を順次移転します。
移転先はnoteの 奈良・八起堂治療院 です
古武術の技法には、一見不思議に見えるものがあります。そんな技法も、脳の情報処理と、物理学の観点から解説すると、意外にわかりやすいもの。 甲野先生の松聲館で学んだ技法をもとに、日々の患者さんへの施術で気づいたことなどをまとめてゆきます。
「今週は、練習してる間に下手になった気がします…」
とのこと。家族を相手の練習で、技が効かなくなっていたというのです。
そこで手を合わせてみたところ、確かに崩しの動作に入ったところでピタッと動きが止まります。止まるのですが、止まり方が前回までと違う。
「この一週間で、かなり上達しましたよ!」
と言ってあげると、本人は不思議そうな顔。実感がないらしいのです。それでも私が上達したと言ったのは、動きの質が変わっていたからです。
以前の彼女は、力技で相手を崩そうとしていました。
しかし崩し技は単なる力学ではなく、感覚に働きかける技術です。相手の力を読み、ぶつからないように自分の力を徹してゆくのですが、これが難しい。
というのは、私たちの本能には「力を強くすればなんとかなる!」がプログラムされているからです。ビンのフタが開かないときは、もっと力を入れたくなりますよね。荷物が持ち上がらないときもそう。
練習するときも、つい相手の力に対抗して力を入れたくなってしまうのです。
力を入れると内部感覚は鈍くなりますし、大きな筋肉が固まることで、細かい筋肉の操作が難しくなります。
上達のためには、一度力を捨てて、繊細な力の感覚と向き合う必要があります。本能を抑え、反射的に力が入る反応をしなくなるまでが、稽古の第一段階。
とはいえ本能に逆らうのは難しく、それまでに挫折する人も少なくありません。
学生さんは今回、それができるようになっていました。途中で止まっていたのは、感覚が鋭くなって無理を押し通さなくなったからです。
もちろん、身体操作を覚えて技を使えるようになるまでには、まだ時間がかかります。しかし、この山を超えたことで確実に道は開けました。
指導する側として、ほっとした次第です。
●動作の効率
手で持つと重い荷物でも、リュックで背負うと軽く感じますね。同じものであっても、持ち方次第で重かったり、楽だったりするわけです。
動作も同じで、動き方次第で身体にかかる負荷は変わります。
例えば剣を振るだけでも、通るコースや遠心力の使い方で、必要な力の大きさは変わります。効率的になればなるほど、力は小さくてすみます。
ところが「力を入れると速くなる」と考えていると、楽に動ける方ではなく、手に抵抗感が伝わってくる振り方をしたくなります。そのほうが「大きな力を使っている実感」があるから。
さらにいうと「力を入れている」という実感は屈筋(曲げる・持ち上げる)の方がはっきりしているので、伸筋(伸ばす・支える)を使うべきところでも屈筋を使ってしまったり。
力は多く使うのですが、ムダばかりで速くなりません。
●練習は軽く、できるだけ軽く
では、どのように練習するか。逆に、力の実感がない動きを目指します。
抵抗感、手に伝わってくる感覚などに注意しながら、より軽く動けるということを基準にして練習を重ねてゆきます。
「筋肉と会話する」という言いまわしがありますね。効率の良い動きを目指す場合は「もっと頑張れ!」ではなく
「疲れてない?」と話しかけたいものです。
関連して思い出したのが、子供のかけっこです。
私たちが走るときには、身体を前に傾けていますね。
走るための原動力は、地面を押す力です。その力を垂直(重力に対抗する方向)と水平(前方)に分けた、水平方向が加速に使われます。傾きが大きいほど、加速に使える力が大きくなりますね。
速く走れる子供は、身体を思い切って前に傾けることができるので、地面を蹴る力の多くを前進に使えるのです。
走るのが遅い子供では、上体が起きたままの子が少なくありません。これも、倒れないことを優先する本能のなせるわざ。うまく身体を傾けることができず、地面を蹴る力が身体をジャンプさせるために使われてしまい、加速ができなくなっています。
速く走るためには、足の上げ方とか腕の振り方などいろいろな要素があります。小学生のかけっこレベルでは、まず最初に身体の傾きに慣れさせることが必要かもしれません。
なお、足首が固いために前傾が苦手な子もいます。この場合は、足首を柔らかくするか、脹脛の筋肉を気長にストレッチするなどの対応が必要です。